(河出書房新社・1575円) ◇異端で在り続けるための苦闘 評者は中原昌也作品の良き読者ではない。三島由紀夫賞を受賞したとき猛反対した。書かれてある中身が理解出来ないわけではなくすべて頭に入ってくる。ごくまっとうな日本語で書かれてあるのだから。 それを書く作者が解(わか)らない。 解らないものは恐怖だ。恐怖を取り除くために無視することも出来るが、その中に潜り込むことで、恐怖を取り除く方法ももちろんある。恐怖の種を囓(かじ)ってみて大した味ではないと安堵(あんど)したり、種の行く末を想像してその攻撃性を測り、この程度なら恐るるに足りずと警戒意識を収める。こうした不純で自己防衛的な読書もある。作者の側からすれば、脅威を蔓延(まんえん)させて読者を獲得する方法もあるだろう。 折しも自分の不注意で肋骨(ろっこつ)を3本折った。固定ベルトで胸部をきつく締め付けると呼吸量が三分の二に落ち、その分脳の酸