よんどころない理由で、あるいはあまりに複合的な問題を抱えていてひとつずつ解決しようと思うと気が遠くなるというような理由で、彼らは離別に合意した。彼らはともに五年を過ごし、五年かけて互いを新鮮に感じることがなくなり、また五年分の若さをうしなった。それらは彼らが問題に立ち向かうだけの気力を最後の一滴までしぼりとった。彼らは困難に打ち勝って関係性を維持するだけの情熱をうしなったのだし、それこそが離別の原因なのだから、ひとことで「飽きたから別れた」と言ってもかまわないと、彼女は思った。 彼らはすっぱりと別れて二度と連絡しないという選択ができなかった。彼らはたがいの存在に慣れすぎていた。彼らにもはや情熱はなく、しかし相手にまつわる大量の習慣を持っており、別れたらそれをひとつひとつ組み替えていかなければならないのだった。 ひと月も経つと彼女はそのことにうっすらと気づきはじめた。彼は気づかず、ただ感じて
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