(2012年3月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 企業経営者がメディアの取材を受けている最中に涙で声を詰まらせるというのは、そうあることではない。だが、日本はまだ平時ではない。しかも、ビール醸造やレストラン経営を手がける世嬉の一酒造の社長を来月引き継ぐ佐藤航氏にとって、この1年はとても厳しい年だった。 家族経営の同社は、2011年3月11日に発生した大地震と津波で甚大な被害を受けた東北の岩手県にある。同社の醸造所は内陸にあるため津波の猛威は免れたものの、震災後の混乱で数カ月間業務が行えず、建物の修繕にも多額の費用がかかることとなった。しばらくは倒産寸前の状況だったという。 しかし、筆者が震災から1年経つのを前に取材した際、佐藤氏の目に涙が浮かんだのはそういった問題のためではなく、あの時の顧客の対応を思い出したからだった。 震災後、顧客に救われてきた企業 同社は震災の後、顧客に連絡を