『クォンタム・ファミリーズ』(以下『QF』と略記)は、量子(クォンタム)コンピュータのネットワークによって相互干渉する並行世界を舞台に、出会うはずのない「家族」が時空を超えてリンクされる歴史改変SFである。グレッグ・イーガンやP・K・ディック、瀬名秀明や麻枝准らの先行作品と、ジャック・デリダの脱構築哲学を同時に視野に収めながら、作者自身とその家族を投影した作中人物(東浩紀は作家のほしおさなえと結婚し、娘がひとりいる)が離合集散する、思弁的でプライベートな色合いの濃い小説になっている。 作中で示唆されているように、『QF』は村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に宛てた、二一世紀からの返信でもある。春樹作品はディック(世界の終り)とレイモンド・チャンドラー(ハードボイルド・ワンダーランド)のハイブリッド小説だが、本書の中にチャンドラーの占める席はない。その空隙を埋めるのは、一
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