『近代芸術の解析 抽象の力』(岡﨑乾二郎 著) この一か月の間に、私はこの本をごく自然に三回読んだ。ひとつには難解だからであり、ひとつにはにもかかわらずきわめて刺激的だったからである。 緒言で著者岡﨑は、抽象芸術が追究してきたものは、物質が知覚をとびこえて直接精神に働きかける直接性ないし具体性だと言い、つまりキュビスム以降の芸術の核心は「唯物論」だと宣言する。 一方で、抽象芸術を単に視覚の追究と誤認したり、デザイン的意匠と間違えたりすることが続いたおかげで、正統な抽象芸術を志向してきた戦前の日本の芸術家が無理解にさらされてきた、と岡﨑は説き始める。 そこで岸田劉生が、恩地孝四郎が、熊谷守一が新たに見直され、ほこりをぬぐわれて輝いていくのだが、同時にモンテッソーリ教育が芸術家たちに与えた影響、またダンサーとしてデザイナーとして教師としてダダを主導した女性ゾフィー・トイベル=アルプの足跡なども