「震災直後は、明らかに価値観が変わったことを実感できた。でも、変わったはずなのに、時間が過ぎてみると従来通りの日常が戻り、従来通りに仕事をしている。そのことが妙に、漠然とした不安をかき立てるんです」 「自分の中の『変わった』という実感が日々遠のいていって。ひょっとしたら自分は大きな社会の変化の波についていってないのではないかという気がして。芥川龍之介流にいえば、『ぼんやりした不安』とでもいうんでしょうかね」 先日、企業の中間管理職の方たち数人と、いろいろとお話をさせていただいた時に、1人の男性がこうこぼした。 変わったはずなのに、変わっていない――。うん、何となくだが、彼の気持ちは分かる気がする。 例えば、買い物に行く。すると、訪れた先には震災前と大して変わらない光景が広がっている。一時は閑散としていた都内の百貨店に人があふれ、高級食材やブランド品を買う人、催事場の北海道展に列を連ねる人…