新宗教の建築・都市、その戦略論序説 | 五十嵐太郎 Learning from Tenri: "The Heavenly City" | Igarashi Taro 世界軸1──一八七五年 宗教的人間にとって 空間は均質ではない。 ──M・エリア─デ★一 その日、あらかじめ屋敷は入念に掃除されていたのだが、教祖(おやさま)がまず先に庭の中を歩いたところ、ある一点において足がぴたりと地面にくっついて動かなくなる。教祖がその地点にしるしを付け、続いて、信者たちは目隠しをしながら歩くと、やはり同じ場所で吸い寄せられるように立ち止まった[図1]。それが天からの寿命薬を受けるという甘露台のぢば(地場)であり、天理教における世界の中心、すなわち人間創造の場が明らかにされた瞬間でもあった。明治八年、陰暦の五月二六日のことである。ここは後に教団名が市に冠せられるところの中枢になるのだが、当時はまだ小さな農