:外界と内面世界、土地と習俗 一つの地域でもってあらゆる世界の用を足すというのが、小説家が負う特異な任務である。なぜなら、彼が一つの世界を浮かび上がらせるのは、彼の力量で真実さを持たせうる生活の具体的な細部をとおしてだからだ。 これは何よりも、作家の天職が、限定する力であるということにかかわる。作家は、何を自分の筆で生かせるかを選ぶことはできない。或る作家は、醜い人物は生かせるが、見目麗しい人物を生かすことができないかもしれない。そして、醜くても生きた人物はそれでいいが、五体完全でも死んだ人物は受け入れることはできないのだ。作家は、その才能がどれほどのものであろうと、本来の限界の外で行使しようとしてそれを駄目にするようなことは、みずから進んでするべきではない。 作家がかかわるのは、もちろん、彼をもっとも直接に取り巻く地域だ。別に言えば、作家が作品に利用できるほど熟知し、しかも、確固たる習俗