1 今もはっきり思い出せるんだけど、実家近くの横浜線の線路沿い、フェンスと線路のちょうど間のあたりに、キャベツが植わっていた。たぶんキャベツ。少なくとも球形の葉物だった。鳥避けの風車も立っていて、農作業用の帽子を被った見知らぬ人物が、腰を曲げて野菜の世話をしている様子を何度も見た。だから幼少期の私は素直に、ああこの土地はこの人の畑なんだな、と納得していた。 それから何年もして、私がティーンエイジャーになるかならないかくらいの時期だったと思う。突然その畑がなくなった。耕され、野菜が植えられていたあの場所は、突然全てひっぺがされて、何か立て看板――どんな文面だったかは忘れたが、とにかくここはJRの土地で、耕作してよい領域ではないという趣旨のもの――が立ち、あの農作業用帽子の人物もいなくなってしまった。その光景を見て初めて、私はあの畑が誰の許可も得ずに勝手に耕されていた地面であったと知ったのだっ