紀伊國屋じんぶん大賞入賞作『水中の哲学者たち』で話題の永井玲衣さんによる新連載「ねそべるてつがく」。つねに何かを求め、成長し、走り回らなければならない社会の中で、いかにして「考える自由」を探し求めることができるのか。「ただ存在するだけ運動」や「哲学対話」を実践する哲学者がつまづきよろめきながら、言葉をつむいで彷徨います。「考える」という営みをわたしのものとして取り戻す、新感覚の哲学エッセイ! 目の前のひとの顔を眺めながら、わたしはこのひとの血を見たことがない、と思った。 あなたはつまらなそうに疲れたため息をつき、ぱらぱらとせわしなく新書のページをめくっていた。一ページ、二ページと進んだあと、やけに丁寧な手つきで一ページ、二ページ、三ページと引き返し、しばらくじっと見つめたあと、何の意図もなさそうにばらばらばらばらばらっと勢いよくページをめくり、もう一度ため息をついて本を机の上に載せた。あの