みんなは、自分の状態のみじめさや、自分の活動の無意味さなど意識してもないかのように、 生きている。「あの連中か、さもなければこの自分が狂っているのだ」めざめた人間はこころの 中で言う。「しかし、みんなが狂っているはずはない、とすれば、狂っているのは俺のほうなん だ。だが、違うぞ。こういうことを告げてくれるこの理性的な自分が狂っているはずはない。 この自分がただひとり全世界を相手に立ち向かおうと、俺はこの自分を信じぬわけにはいかない」 こうして人は、魂を引き裂くような恐ろしい疑問をかかえたまま、世界中で自分が一人ぼっちな のを意識する。それでも生きてゆかねばならない。・・・・ そして、この分裂と苦悩の原因が彼には理性だと思えるのだ。 人間の生命に欠くことのできぬ最高の能力であり、人間を破壊する自然の力のただなかで、裸一 貫のよるべなき人間に生存の手段をも快楽の手段をも与えてくれる能力である理
![2007-01-14](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/06a15c64ba0ceec233d86d71001ebb29a9dcbf5d/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn.blog.st-hatena.com%2Fimages%2Ftheme%2Fog-image-1500.png)