我々は、ときに美しく盛り付けられたフランス料理を見て「芸術的だ」と言う。 また、華麗な手さばきでピザ生地を広げたり、魚をさばくシェフの姿に、創意に満ちた芸術家の姿を重ね合わせる。 すぐれた料理の味や香りがもたらす感動や快楽は、映画や音楽のそれにも劣らない。 さて、食はアートと言えるのか。食の美学は可能だろうか。 今回は二部構成となっている。 前半には、アーロン・メスキンによる短い論考「食品の芸術」(2013)のレジュメを載せた。食品(料理)はアートとなりうるのか、なるとすれば、いかなる意味でアートと言えるのか、という問題をざっと概観したい。 後半は、これを踏まえ、食の美学が検討すべき問題群を整理する。食を取り巻くさまざまなトピックを紹介し、これらの美的な可能性を探っていきたい。 あらかじめ目的と意義を明らかにしておこう。なぜ、食の美学を問わなければならないのか。 第一に、食文化とは人間存在