ありがたいことに、いまも大学や研究機関、学会などから、講演のご依頼をいただくことがございます。私は2009年3月で東北大学機械系特任教授を退任しましたので、現在は完全なフリーの小説家。それでも学術の場で話ができるのは純粋に嬉しく感じています。 さて、ここでちいさな私の願いを書かせてください。 学術コミュニティと作家のコミュニティは、常識も習慣も大きく異なっています。いちばんの違いは、研究者はおおむねどこかの大学や企業に所属するサラリーマンであり、作家は自由業であるということです。不況にもっとも強い職業のひとつはパーマネントの職を得た研究者といえるでしょう。一方、作家は自分が書いた原稿がすべて。 研究者から講演のご依頼をいただくとき、必ずといっていいほどくっついてくるのが、「些少で申し訳ありませんが……」という一言。研究コミュニティでは講演でお金を儲けるという感覚はなく、講演とはコミュ