対象に魅入られる。それが良書を生むための必須条件であろう。この通史は、1996年生まれの若武者が、同時代を呼吸できなかった漫才に、強く肩入れする気持ちに貫かれている。 吉本に代表される関西の漫才とタレントが、世間を席巻している。けれども、かつては、東京の漫才も、隆盛を誇った歴史があった。白眉となるのは、元祖、東喜代駒(あずまきよこま)にはじまり、四天王、夫婦漫才、民謡の安来節(やすぎぶし)とのかかわりを書き起こした第2章から3章である。かつては芸能の中心地だった浅草の空気感が伝わり、さらにラジオ放送との関わりを読み解いていく。そして、戦前の黄金時代や戦時下、そして終戦直後の焼け跡で、市民に笑いを巻き起こす娯楽が、尊重され、下火にもなり、けれども立ち上がっていく。そのありさまを、まるで見てきたように描き出している。 寄席演芸の本道には、落語が君臨してきた。色物と一段下に見られてきた漫才の屈辱
![<書評>『東京漫才全史』神保喜利彦(きりひこ) 著:東京新聞 TOKYO Web](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/d842b94d16fae85d00651d15f77c307f58a33e4d/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fstatic.tokyo-np.co.jp%2Fimage%2Farticle%2Fsize1%2Ff%2Fb%2Fd%2F5%2Ffbd5240f61ea120cf9b9e0c853ac4748_1.jpg)