藤田三男さんの『榛地和装本 終篇』の面白いのは、これがこの手練の編集者の一種の自伝になっているところにある。こう書くと首を傾げる読者もいるかもしれない。これは文藝編集者の文壇回想録の一種ではないかと。むろん一面ではそうに違いないけれども、それではこの本の表向きの表情しか捉えたことにならない。もう一面の、つつましやかに語られた「『素面』の『告白』」(これは三島由紀夫を論じた文のタイトルだ)が、この本に陰翳をあたえ、類書と異なる奥行きをあたえているのである。 いそいで附け加えると、それは「告白」というような大仰なものではない。世間話のついでにふと洩らした来し方の断片、いわば人生の「吐息」(ブニュエル)のようなものである。岩本素白や浅見淵や日夏耿之介やについて書かれた文章にふと覗かせる「素面」についてここではふれない。中仕切りのようにそっと挿し挟まれた数篇の随筆についてあらずもがなの感想を述べて