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ブックマーク / blog.livedoor.jp/yamasitayu (33)

  • 早島大祐『徳政令』(講談社現代新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    9月29 早島大祐『徳政令』(講談社現代新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 借金を帳消しにする徳政令に関しては歴史の授業などで聞いたことがあると思いますし、室町時代には民衆が徳政を求める徳政一揆をおこしたということを知っている人も多いでしょう。 民衆が実力で持って勝ち取った徳政ですが、実は16世紀になると人々の間で好ましくないものと認識されるようになってきます。 この徳政に対する認識の変化がどのようなもので、何によってもたらされたのかを丁寧に解き明かそうとしたのがこのです。室町時代の社会構造の変化を辿るとともに、「借りたお金は返すべきだ」という共通意識がどのように芽生えていったのかを示そうとしています。 わかりやすく説明するために現代社会に置き換えた喩えなども多用してあって(個人的にはもう少し簡潔でもよいかと思いましたが)、読みやすいと思いますし、最後には内藤湖南の「日史は応仁の乱

  • 中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書) 9点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    6月8 中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 ナショナリストといえば、政治的には「右」であり、「保守」であり、近年は「嫌韓・嫌中」などの排外主義的な傾向を持つ者ものも多い。日で暮らしているとおおよそこんなイメージだと思います。 ところが、世界的に見るとそうでもないのです。例えば、デンマークでは「左派」と見られる社会民主党のもとで移民を厳しく制限する政策が進みました。 また、何が「ナショナリズム」なのか? という問題もあります。スコットランドの独立を目指すスコットランド民主党は「ナショナリズム」政党と言えるのか? 韓国では、北朝鮮との統一を目指すのが「ナショナリスト」なのか? それとも北朝鮮との対決姿勢をとるのが「ナショナリスト」なのか?というのは一概には決められないでしょう。  書は、既存の「ナショナリズム」、「右と左」といった概念を大きく揺

  • 田原史起『中国農村の現在』(中公新書) 9点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    4月10 田原史起『中国農村の現在』(中公新書) 9点 カテゴリ:社会9点 中国農村へのフィールドワークによって中国農村の姿を明らかにしようとした。非常に貴重な記録で抜群に面白いです。 中国の農村と都市の格差については、NHKスペシャルなどで熱心に農民工の問題をとり上げていたので知っている人も多いと思います。彼らが村に帰ると、そこは都市部に比べて圧倒的に貧しく、お金を稼げそうな仕事もないわけですが、そうした中で農民たちの不満は爆発しないのか? と思った人もいるのではないでしょうか。 また、中国の農村は日の農村のような地縁による強固な共同体ではなく非常に流動性が高いといった説明がなされますが、「農村」という言葉を日の農村でイメージする私たちにとって、なかなか流動性の高い農村というイメージはつかみにくいと思います。 こうしたさまざまな疑問に答えてくれるのが書です。詳しくはこのあと書いて

  • 中畑正志『アリストテレスの哲学』(岩波新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    4月18 中畑正志『アリストテレスの哲学』(岩波新書) 8点 カテゴリ:思想・心理8点 「アリストテレスは死んでない」は、マイケル・サンデルの「ハーバート白熱教室」のサブタイトルにあった言葉ですが、サンデルを含めたコミュタリアンの台頭もあってアリストテレスの倫理学が再注目された印象はありました。 とは言っても、それはあくまでも倫理学の分野の話で、それ以外のアリストテレスの哲学については古色蒼然とした印象を持っている人も多いかもしれません。 そんな中で書は、倫理学などのアリストテレス哲学の一部分を切り出して評価するのではなく、アリストテレス哲学の全体を紹介しながら、それを今なお通用する思想として評価していくものとなっています。 そして、これが「意外にも」と言っては失礼かもしれませんが、面白いのです。サンデル流のアリストテレス思想はともかくとして(書もアリストテレスの倫理学をそんなに推し

  • 中島隆博『中国哲学史』(中公新書) 7点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    4月5 中島隆博『中国哲学史』(中公新書) 7点 カテゴリ:思想・心理7点 「哲学」というと、どうしても西洋のものということになり、中国や日のものは「思想」という形で括られることが多いですが、書は、あえて「哲学」という言葉を使い、西洋哲学や仏教との比較や対話も試みながら、中国哲学の歴史を描きだしてます。 中国の思想を紹介するは数多くありますが、基的には諸子百家を中心にそれぞれの違いなどを論じたものが多いです。そうした中で、書は、中国内の関係(例えば孔子と老子)だけではなく、中国の外から来た思想との関係(例えば儒教と仏教、キリスト教)を見ていくことで、より立体的な中国哲学の姿を構築しています。  索引なども入れれば360pを超えるで、内容的にも難しい部分を含んでいるのですが、今までにないスケールで中国の思想を語ってくれているであり、中国社会を理解していく上でも興味深い論点を含ん

  • 福間良明『司馬遼太郎の時代』(中公新書) 7点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    12月8 福間良明『司馬遼太郎の時代』(中公新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 戦後を代表する作家であり、また「歴史家」としても多くの人を魅了した司馬遼太郎。一方、その作品の内容については批判する研究者も多いです。 そんな司馬遼太郎について、個々の作品ではなく、その生い立ちと人気をえた時代背景を分析することで、作家と時代を描き出そうとした試みになります。 著者の専門は文学や歴史学ではなく歴史社会学やメディア史で、司馬遼太郎が受け入れられた理由についてはポイントを示しながらうまく説明できていると思います。 やや繰り返しが多いような部分もあるのですが、「司馬遼太郎の時代」を描くことで、同時に司馬遼太郎という個人のあり方にも迫ることができています。司馬遼太郎のファンの人も面白く読めるでしょう。 目次は以下の通り。序章 国民作家と傍流の昭和史第1章 傍系の学歴戦争体験―昭和戦前・戦中期第2章

  • 小川真如『日本のコメ問題』(中公新書) 7点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    7月19 小川真如『日のコメ問題』(中公新書) 7点 カテゴリ:社会7点 さまざまな料品の価格が値上がりする中で、幸いなことにコメの値段は上がっていません。助かっている人も多いと思いますが、その理由はコメが基的にすべて国産で、どちらかというと余っている状況だからです。 戦後、日料不足から脱するためにコメを増産し、そして余るようになり、現在に至っています。書はこのコメ余りの問題を「田んぼ余り」の問題として捉え、そこから今までの日の農業政策の問題点や日の農業の今後を探っています。 独特の用語も多く、ややわかりにくい部分もありますが、間違いなくユニークで興味深い議論だと思います。 農業には多面的な機能があるとよく言われますが、ではその多面的な機能とは何なのか? どうしたら多面的な機能を守れるのか? といった問題を考える上で、そして日の農業のあり方を考えていく上でさまざまな知見

  • 菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    3月28 菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ) 8点 カテゴリ:社会8点 『世論の曲解』(光文社新書)で政治をめぐる世論調査や分析に鋭い批判を行なった著者によるデータ分析の入門書。 ただし、例えば伊藤公一朗『データ分析の力』(光文社新書)が因果推論のさまざまな手法を紹介し、データ分析のツールを教えるだったのに対して、書は世に出回っているデータ分析の問題点を指摘し、その読み解き方を教えるものとなります。 その点では、書はメディア・リテラシーのでもあり、少し古いになりますが谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書)と同じ系譜にあるとも言えます。 近年ではデータが重視される中で、マスメディアやネットにもさまざまなデータ分析が溢れていますが、これらの中には明らかにおかしいものもあれば、一見すると鋭いようでいて実は何かがおかしいものもあります。 書はそうした玉石混交のデータ

  • 辻本雅史『江戸の学びと思想家たち』(岩波新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    1月31 辻雅史『江戸の学びと思想家たち』(岩波新書) 8点 カテゴリ:思想・心理8点 江戸時代の思想家をとり上げたですが、それぞれの思想家の思想を綿密に解説するのではなく、彼らがとった学びのスタイルと利用したメディアに注目して論じていることが書の大きな特徴です。 同じく江戸の思想家をとり上げたとしては田尻祐一郎『江戸の思想史』(中公新書)があり、面白く読んだ記憶がありますが、『江戸の思想史』が儒学から蘭学までさまざまな人物をとり上げたのに対して、こちらは山崎闇斎、伊藤仁斎、荻生徂徠、貝原益軒、石田梅岩、居宣長、平田篤胤ととり上げる人物をかなり絞っています。 その代わりに書が注目するのは彼らの学び方であり、受容のされ方です。ここに注目することで書は思想だけはなく、江戸時代の社会のあり方にまで考察を広めています。 日史の教科書だとどうしても断片的にしかわからない思想家たちに、

  • 千々和泰明『戦争はいかに終結したか』(中公新書) 7点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    8月30 千々和泰明『戦争はいかに終結したか』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 タイトル通り、戦争がどのように終わったのかについて、第1次世界大戦、第2次世界対戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争を分析した。 戦争がいかに始まったかについてはずっと議論があり、例えば第1次世界大戦や太平洋戦争がなぜ起こってしまったのかについて数々のが書かれてきました。一方、書のように終わり方にフォーカスをあてたというのはあまりなく(日の「終戦」に関するも国内の終戦工作を追ったが多い印象)、まずはアイディアの勝利です。 また、単純に戦争終結の過程を追うだけではなく、それを「将来の危険」と「現在の義性」をめぐるジレンマとして理論化しており、「戦争の終わり方」を考える視座を与えてくれるものとなっています。 目次は以下の通り。序章 戦争終結への視角―「紛争原

  • 小口彦太『中国法』(集英社新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    1月26 小口彦太『中国法』(集英社新書) 8点 カテゴリ:社会8点 副題は「「依法治国」の公法と私法」。長年、中国の契約法を中心に研究してきた著者が、中国における具体的な判例に沿いつつ、中国の法の特質を論じたになります。 判例を中心に法学的な議論がなされているので決してとっつきやすいではないのですが、読み進めていくと中国の法、そして政治や社会の原理といったものまでが見えてきて非常に面白いです。 さらに、中国の法制度は欧米流の刑事司法の原則や法の支配、あるいは立憲主義といった考えからは明らかずれている部分があるのですが、その「ずれ」は、実は一般的な日人にとって比較的受け入れやすい考えでもあり、欧米で発展してきた司法制度そのものがかなり特異なもの(だからこそ貴重)だということが見えてくるような内容になっています。  目次は以下の通り。 序章 私法か公法か、法律認識のギャップがもたらした

  • 荒木田岳『村の日本近代史』(ちくま新書) 9点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    12月30 荒木田岳『村の日近代史』(ちくま新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 なんとなく我々は、鎌倉時代以降に成立した自治的な組織である惣村が、人々の共同体として江戸時代に受け継がれ、それが明治期に行政単位として再編されていったというイメージを持っています。江戸時代には共同体としての「自然村」のようなものがあったと想定されがちです。 しかし、書ではそうした自然村は一種の幻想であり、村というのはあくまでも支配のための「容器」であったと主張します。そして、そのことを証明するためにあくまでの支配者の目線に立ちながら、太閤検地以降の村の変遷を追っていくのです。 このように書くとなかなか硬そうな内容ですし、実際に硬いなのですが、全体を通して非常に刺激的な議論が行われています。 私たちは権力者が制度を制定すれば、その通りに物事が運ぶと考えがちですが、そうはならなかった部分を丁寧に見ていくこ

  • 内藤正典『イスラームからヨーロッパをみる』(岩波新書) 6点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    9月15 内藤正典『イスラームからヨーロッパをみる』(岩波新書) 6点 カテゴリ:社会6点 シリア内戦からの難民の大量流入、パリでの同時多発テロ事件、そして反イスラームを掲げるポピュリスト政党の台頭と、ヨーロッパにおけるイスラームというのは2010年代の大きな問題となってきました。そんな問題に対して長年ヨーロッパとイスラームの研究を行ってきた著者が分析したになります。基的にはムスリムからの視点を中心に、ヨーロッパにおける共生がいかに難しくなっているかということが書かれています。 ただし、5章立てので、第2章から第4章にかけては基的にはイスラーム世界の動向を追うことに当てられており、「ヨーロッパ」に関する部分はタイトルから想像するよりは少ないかもしれません(もちろんトルコをどう捉えるかにもよりますが)。また、トルコに関する記述に関しては「エルドアン寄り」なので少し注意する必要もあるか

  • 岡本隆司『「中国」の形成』(岩波新書) 7点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    8月25 岡隆司『「中国」の形成』(岩波新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 岩波新書〈シリーズ中国歴史〉の第5巻にして最終巻になります。時代ごとの区分ではないシリーズ構成が特徴でしたが、この第4巻以降は時代順の構成で巻は清〜現代までになります。 なぜ異民族である清王朝が長期に渡って支配を継続し、さらにモンゴル、チベット、新疆にまで支配地域を拡大させることができたのか? その清が傾くとともにどのようにして「中国」が出現くるのか? そして、その「中国」が抱えていた問題がどのように現代に持ち越されているのかということが論じられています。 内容としてはシリーズの他の巻に負けずに面白いです。ただし、書に関しては同じ著者の『近代中国史』(ちくま新書)とかぶってる部分も多く、『近代中国史』を読んでいると、新しい発見はやや少ないかなという感じもします。 目次は以下の通り。第1章 興隆第2章 転

  • 丸橋充拓『江南の発展』(岩波新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    3月9 丸橋充拓『江南の発展』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 渡辺信一郎『中華の成立』につづく、岩波新書<シリーズ中国歴史>の第2巻。以下にシリーズの構成を示した画像を再掲しておきますが、今作では中国南部の舞台に稲作が始まった時代から南宋の滅亡までが描かれています。 「はじめに」で「南船北馬」という言葉が紹介されているように、中国北部が「馬の世界」であるとしたら南部は「船の世界」です。そして船を通じて東南アジアや日ともつながっていました。また、商業の発達などは「古典国制」の枠組みに包摂されないアウトロー化した人びとを生み出しました。 書では中国南部を中心とした通史でありますが、同時に国家とアウトロー化した人びとの関係などを探ることによって現代につづく中国社会の特質にも迫ろうとしています。 かなり硬い印象のあった第1巻に比べると、同時代の日への言及なども多く、より柔ら

  • 市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    3月14 市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 タイトルのユダヤ人とユダヤ教について知らない人はいないでしょう。ユダヤ教に関しては「キリスト教のもととなった宗教」、ユダヤ人に関しては「ホロコーストで犠牲になった」、「ロスチャイルド家などの金融資」といったイメージがまず浮かぶのではないでしょうか。 しかし、そのイメージがユダヤ人とユダヤ教についての見る目を曇らせている部分もあると気づかせてくれるのがこの。例えば、ユダヤ教というとどうしてもキリスト教徒の関連で考えてしまいますが、むしろイスラムと近い体系であることがこのを読むとわかります。 著者はヘブライ大学でも学び、長きに渡ってユダヤ教やユダヤ思想を研究してきた人物で、歴史、信仰、学問、社会の4つの側面からユダヤ人とユダヤ教について迫っています。 190ページほどので懇切丁寧というわけではありません

  • 坂井孝一『承久の乱』(中公新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    1月7 坂井孝一『承久の乱』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 呉座勇一『応仁の乱』、亀田俊和『観応の擾乱』とヒットを続けている中公新書の『~の乱』というタイトルのですが、個人的にはこの承久の乱は、応仁の乱や観応の擾乱よりも詳しい部分について知らない乱です。 もちろん、三代将軍実朝の暗殺をきっかけに後鳥羽上皇が北条義時追討の院宣を出すが、逆に鎌倉幕府の側に武士が集まり、敗れた朝廷側は後鳥羽、順徳、土御門の三上皇が配流されるというようなアウトラインは知っていましたが、戦いの経過などについては、あまり詳しい話を読んだことがありませんでした。 そんな時代の画期となった出来事にもかかわらず詳しい内容があまり語られることのないこの乱を、朝廷、幕府それぞれの動きに目を配りながら論じたのがこの。個人的には前知識がなかったぶん、『応仁の乱』や『観応の擾乱』よりも勉強になりました。 ちなみに、

  • 横山百合子『江戸東京の明治維新』(岩波新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    9月21 横山百合子『江戸東京の明治維新』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 明治維新を「革命」と呼べるかどうかは昔から議論の分かれるところですが、明治維新をきっかけとして身分制社会が解体され、近代社会が立ち上がったことを考えると、やはり「革命」と言っていいような大きな変化だったのだと思います。 しかし、「身分制社会の解体」と言ったとき、一般の人々の暮らしはどのように変化するのでしょうか? このは明治維新によって日の中でもとりわけ大きな変化を被ったと考えられる江戸に暮らすさまざまな身分の人々に光をあて、明治維新がもたらした変化を描き出そうとしています。 このよりも扱う時代は少し後になりますが、内容的には松沢裕作『町村合併から生まれた日近代』(講談社選書メチエ)に通じるものがあります。『町村合併から生まれた日近代』は明治の大合併を見ることで近世の村落の特徴が浮かび上がる内

  • 高槻泰郎『大坂堂島米市場』(講談社現代新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    8月31 高槻泰郎『大坂堂島米市場』(講談社現代新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 世界初の組織的な先物取引市場とも言われる大坂堂島米市場。その実態と幕府が先物市場にいかに関わったのかということを掘り起こしたになります。 現代ではデリバティブなどの複雑な取引が行われていますが、そもそもそうした取引が存在することの意義というものがよくわからないという人も多いと思います。このを読むと、まずはそうした取引の意義というものが歴史の中から見えてくると思いますし、さらには民間の商人たちの投機と、それに対してときには規制をかけ、ときにはそのシステムを利用して自らの利益の実現を図る幕府の姿も見えてきます。 歴史に興味がある人にも、経済学投資に興味がある人にも楽しめる内容で、また、史料も現代語訳と原文をともに載せており、全体的に丁寧なつくりとなっています。 目次は以下の通り。 第1章 中央市場・大

  • 藤田覚『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書) 8点 : 山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

    3月26 藤田覚『勘定奉行の江戸時代』(ちくま新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 がっちりとした身分制度で固められていた江戸時代において、身分を超えた思い切った抜擢が見られるのが幕府の財政を預かる勘定所とそのトップの勘定奉行です。 幕末に勘定奉行を務め外交交渉などでも活躍した川路聖謨は、豊後日田の代官の手代の子であり、もとは幕臣ですらなかったのですが、無役の御家人の家に養子に入り、そこから勘定所に採用され勘定奉行まで上り詰めます(35-36p)。また、「胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出る」との言葉を残したとされる神尾春央は伊豆の百姓の出身と噂されました(書でも指摘されているようにこれは誤り)。 このように幕府の中でも珍しく実力主義をとっていた勘定所は、たんに幕府の財政を預かるだけではなく、道中奉行を兼任し、幕府の司法機能を担う評定所の実務を担当しました。勘定所は幕府の財政・農政・交通