ひとつの肉体にふたりの人格、という主人公の造形が、不思議な気分を作り上げる。 書き手は主にメルヒオールだが、時々バルタザールが茶々を入れたり、異論を唱えて筆を交代したり、こっそり書いて糊付けしたり。 まるで「二人羽織り漫才」! 科学非確立時代における二重人格モノなのかなという「精神分析的読み」を軽々と覆す、「非物質的実体」という概念。 これが嘘や隠蔽や裏切り、鏡像、さらには幽体離脱や憑依や吸血鬼、といった頽廃的なギミックになり、物語の推進力にもなる。 (このあたり、シャム双生児にこだわる皆川博子との、似ていながら違うところなのだろう。) 感情移入ははっきりいってゼロ。 転落を続ける気障で嫌味な駄目人間。何も生み出さない。 だが何ともいえない色気がある。 没落貴族だからこそ可能な、俗物への皮肉とか。 時代に逆らうような洗練と瀟洒と軽妙と頽廃と甘美と享楽と倦怠と爛熟と放蕩と優美と刹那の生活とか
![『バルタザールの遍歴 (文春文庫 さ 32-2)』(佐藤亜紀)の感想(127レビュー) - ブクログ](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/e3c57da9f0c7103738ab3d7a70b7cce5bb3801de/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fm.media-amazon.com%2Fimages%2FI%2F41HpLV%2BfciL._SL500_.jpg)