70年以上も前のことになる。 日本軍が真珠湾を攻撃した。 そのとき三木清が人生論をノートしていた。 三木は西田哲学を超えようとして、 すでに「構想の哲学」と「方法の哲学」を携えていた。 しかし人生論のノートでは、噂や幸福について、 嫉妬や成功について、孤独や娯楽について、 社会や自己や個性について、述べた。 昭和の哲学だが、きっと共感をもたれると思う。 おそらくあまり読まれてはいないだろうけれど、三木清の人生論ノートは、もう一冊の有名な哲学ノートよりもずっとおもしろいので、紹介しておくことにした。すべて戦前の文章だが、この本は阿部次郎の『三太郎の日記』とともに、ぼくには懐かしい二冊の昭和人生哲学なのである。 たとえば、こんなふうだ。 「生命とは虚無を掻き集める力である。それは虚無からの形成力である。虚無を掻き集めて形作られたものは虚無ではない。虚無と人間とは死と生とのように異なっている。し
