「まだ、どこにも出て歩きたくねえんだ」 東京電力福島第1原発事故後、福島市の「みなし仮設」と呼ばれる借り上げ住宅で暮らす60代女性が今月中旬、知人男性(54)に憔悴(しょうすい)し切った様子で打ち明けた。女性の夫は昨年5月、福島県浪江町へ一時帰宅した際、自ら命を絶った。62歳だった。夫の自死を、妻は今も受け止め切れないでいる。 町の中心部にあった自宅兼スーパーは、地域住民の生活のよりどころだった。家族経営で、父親が始めた店は再開のメドさえ立たず、慣れぬ仮の暮らしは長期化した。夫は眠れない日が続いていたという。 「家さ、見に行かねえかぁ」。夫の提案で震災後初めて、当時は警戒区域に指定されていた自宅へ戻った。夫婦の眼前には荒れた店が飛び込んできた。「ちょっと出かける」。夫はそう言い残して行方が分からなくなった。遺体は翌日、店の商品や資材の置かれた倉庫で見つかった。 震災後の避難生活による体調悪