文/岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・九州大学アジア太平洋未来センター教授) 「北方領土問題」への幻想 三島返還や面積折半の議論を巻き起こした『北方領土問題―4でも0でも、2でもなく』(中公新書)を刊行しておよそ10年。北方領土問題はいまだに解決する兆しはなく、時間だけが過ぎている。元島民の平均年齢はすでに80歳を越え、一世が生きている間の島の返還はほぼ絶望的である。 ロシアの姿勢は頑なになる一方で、担当者たちも今は交渉できるような情勢ではないと言い、先の機会を待とうという気持ちに多くが傾いている。そして私もこの10年、日本の首脳がロシアとやりとりをするたびに進捗状況を繰り返し尋ねられてきた。私の答えはいつも同じである。 「日本が四島返還の主張をおろさないかぎり、解決はしない。日露関係が動くとすれば、領土問題以外の部分であろう(そのことが領土問題の解決につながるかどうかは
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