都心のマンションの一室で、幼い汐里を育てながら暮らす里美は、若い頃に恋人を傷つけて有罪となり、その前科が原因で今は実家とも疎遠になっている。やがて生活に困窮した里美は、汐里を使って計略を働かせ、結婚式場で祝儀を盗む。年月が経ち、一度は里美の前から姿を消した汐里だが―― 「定型みたいなもの」から外れたい ――まず、どういうきっかけで、この作品を書こうと思ったんですか? 前作の『残り物には、過去がある』(新潮社)という、ある一組の新郎新婦の披露宴を舞台にした連作短編集の一編に、祝儀泥棒の親子が出てくるんです。この2人は新郎新婦とは全然関係なく出てきて、あっという間にフェードアウトしていく。でも何かとても心をざわつかせる存在で。一体なぜ2人がこういうことに至ったのかを書いてみたいと思ったのが、この小説の始まりです。 主人公の里美の若い頃から、汐里が成長して大人になるまでの、40年ほどの月日がこの