「ワールドカップ関連の取材で10日間ほどブラジルに行ってきます」 そう伝えると、各誌担当編者は当然のごとく「こやつは何をいい出すのだ」という顔をした。 いや、やりとりはメールや電話で行っているので相手の顔など見えはしない。見えはしないが、私にはありありと彼らの顔から血の気が引いていくのが見えた。 言い出す前から。 客観的に見て、現在の私はマンガ家としては、そうたいして忙しくないほうだと思っている(週刊連載マンガをやっている人の忙しさというのは本当に尋常でないのを知っているからだ)。それでもこの毎週のコラムと月刊のマンガと、それからマンガではないが日刊の新聞小説の挿絵の仕事というのを抱えていて、時間に余裕があるとも言いがたい状況だ。 なにしろ、日本に居てすら、しばしば入稿が遅れがちなのである。そんな信用ゼロの不届き者が1行目のような言葉を発したら、私が編集者でも「お前いいかげんにせーよ」とい