昭和初期ごろまで山間部の厳しい暮らしを支えてきた高知県の伝統作物「地きび(じきび)」。近代化の流れとともに栽培は下火になり、その生産はほそぼそと受け継がれるのみで、まさに風前のともしびとなっていた。そこへ奇跡の巡り合わせが訪れる。2018年にアメリカから帰国した都筑正寛さん(通称マサさん、50)が、ロサンゼルスで親しんだタコス作りの拠点を探しているとき、偶然地きびの存在を知り高知県に移住。地きびの置かれた現状や課題を知り、「地きびを使ったタコスを高知名物にしたい」と意気込む。マサさんの挑戦を追った。 国交省の水質調査で「最も良好な河川」と認定される仁淀川中流域にある高知県日高村。県都高知市からも車で30分ほど、県内では指折りのハウス栽培トマトの産地としても知られている。こぢんまりとした村の中心地を過ぎてほどなく、酒蔵を改装したホールにたどり着く。日高村酒蔵ホールは、地域おこし協力隊員の都筑