折田 奈甫(早稲田大学理工学術院) 1.はじめに 深層学習の発展は素晴らしいが,第一言語獲得を研究する言語学者としては「ちょっと待った!」と言いたくなる瞬間がある.例えば,以下のような発言や記述を研究発表や論文などで見聞きすることが増えた. 深層学習のように人間も大量のデータから統計的に学習しているのではないか.刺激の貧困は存在せず,生得的知識など必要ない.子供は白紙の状態から,あるいは最小限の非言語的知識・能力を使って,言葉を大量に聞いて覚えて話せるようになる.脳についてはわかっていないことが多いので,深層学習を使ったリバースエンジニアリング的な認知科学の研究があってもいいのでは.ニューラルネットワークは神経科学的に妥当なモデルである.そのうえ,人間が行うような情報処理タスクにおいて高い汎用性と学習能力を示している.ニューラルネットワークは人間の認知メカニズムとして妥当な仮説なのではない