国内外で評価の高い村田沙耶香の最新長編『世界99』(集英社)が刊行された。上下巻で850ページに迫る大作だ。 村田沙耶香が一貫して追究してきたこと、それは「ふつう」「正しさ」という固定観念に抗う、あるいはそれらを揺さぶることだろう。「結婚するのがふつう」「子どもができたら退職するのが正しい道」といった圧力。世の「ふつう」も「正しさ」もその多くは時と場合により変転するものだ。そうした相対性、可変性に目もくれず、ただ一つの「ふつう」や「正義」だけに染まることは狂気なのだと、村田の作品は言ってきた。 村田の主題の表現手段が更新された一つのターニングポイントは2014年前後にあったと思う。「殺人出産」「余命」「清潔な結婚」という中短篇3作が発表された年だ。いずれも人間の生(性)老病死のタブー、いわゆるパンドラの箱にあまりにストレートに切り込むもので、私は度肝を抜かれたものだった。これらを含む中短篇