『想像ラジオ』を補助線に 『すずめの戸締まり』を見終わって、東日本大震災を取り扱ったアニメや小説、評論などにいくつか目を通した。その中で、発売以来の再読となった小説『想像ラジオ』(いとうせいこう/河出書房新社)は、『すずめの戸締まり』を考える上でも、興味深い補助線を与えてくれた。 「想像ラジオ」とは、海沿いの杉の木のてっぺんから深夜2時46分になると発信される、「あなたの想像力の中」だけで聞こえるラジオ番組。案内役はDJアーク。彼は津波に被災して、釣り上げられた杉の木の上から音楽とメッセージを発信しているのだ。 想像ラジオがどのようなものかが第一章で書かれ、つづく第二章は被災地にボランティアとして訪れたグループの様子にフォーカスする。語り手である作家のSは、ボランティアの中で耳にした「杉の木の上に引っかかっていた人」のイメージに取り憑かれるものの、その声(=想像ラジオ)を聞くことはできない