1972年は歴史に刻まれる奇跡の年だ。悪魔がヒーローになる逆転の発想で人間の闇を浮き彫りにした一大叙事詩と、後世に脈々と受け継がれる巨大ロボットものを確立した金字塔。不朽の名作2つが1人の漫画家の手で世に放たれたのだから。現在「W50周年記念 デビルマン×マジンガーZ展」を開催…
シャバカ・ハッチングスはUK屈指のサックス奏者として、サンズ・オブ・ケメット、コメット・イズ・カミング、シャバカ&ジ・アンセスターズといったプロジェクトで高い評価を得てきた。アメリカ由来のジャズだけでなく、彼のルーツでもあるバルバドスを含むカリブ海の島々の音楽をはじめ、アフロビート、ジャングルやグライムなどが溶け込んだシャバカの音楽は、近年のUKのジャズにおける最良の教科書のようでもあった。だからこそ彼はロンドンのシーンで「キング」と呼ばれていた。 そんなシャバカがサンズ・オブ・ケメットの2021年作『Black To The Future』あたりからバンブーフルートを演奏し始めるようになると、そこに尺八やインディアンフルートも加わり、サックスを手にする機会が減っていった。誰もが不思議がっていたころ、シャバカは前述の3つのグループの活動を休止すること、サックス奏者としての活動を停止し、フル
インタビュー | 2021.06.07 Mon ボアダムスから現在まで、果てしない表現の宇宙とコアとなる姿勢。YoshimiOのフラクタルな活動を追う。 ボアダムス、OOIOO、saicobab等での活動、またソロ・アーティストとしてもワールドワイドに活動を続けてきたYoshimiO。その歩みを辿りつつ、まだあまり語られていない話を中心に伺った。ピアノ演奏と新しいデュオYoshimiOizumikiYoshiduOのこと、20年近く続くブランドのこと、食のこと。彼女が出演した最新のライブ・セッション『EXPANDED』は音と映像のショーケースで、⽂化庁委託事業の無観客配信イベントとして、この2月に開催された。YoshimiOの音楽に影響を受け、サポートもしてきた、大阪のミックスメディア・プロダクションCOSMIC LABが制作した。インタビューは、COSMIC LABとその拠点である味園ユ
数曲のシングル・リリースやtofubeatsのリミックスをリリース、さらには直前には新機軸としてトラックメイカーのSTUTSをフィーチャーしたシングル「Basis」をリリースするなど、ある意味でリリース・ラッシュというか、なにかとここ1年動きのあったミツメ。そんな彼らが『Ghosts』以来、6枚目となるアルバム『VI』をリリースした。OTOTOYでは本作の配信とともにインタヴュー記事をお届けしよう。今回はその全ての作品でレコーディングを手がけてきたレコーディング・エンジニアの田中章義を迎えて、彼らの曲作りやスタジオワークの風景などなど、田中が一緒に作り上げるサウンドの源泉へと迫る、そんな内容となっている。 ミツメ2年ぶり、6枚目の新作『VI』 アルバム・リリース直前にリリースとなったSTUTSをフィーチャーした意欲作。 こちらは収録曲“トニック・ラブ”のtofubeats remix IN
音楽ライターの松永良平が、さまざまなアーティストに“デビュー”をテーマに話を聞く新連載「あの人に聞くデビューの話」がスタート。多種多様なデビューの形と、それにまつわる物語をじっくりと掘り下げていく。記念すべき第1回のゲストはカクバリズムから昨年12月に1stシングルをリリースした新人バンドChappo(シャッポ)。2人に出会いからデビューに至るまでの4年間を語ってもらった。 取材・文 / 松永良平 撮影 / 相澤心也 ミュージシャンは、どうやって“デビュー”するのか? それはプロデューサーにスカウトされて、レコード会社と契約して……みたいな決まり文句を今も信じている人はもうそんなにいないだろう。というか、昔からデビューに決まった形なんてなかったはず。100のミュージシャンやバンドがいれば、100通りのデビューの仕方がある。そして重要なのは、デビューはそのとき一度しかできないということ。その
ジャイルス・ピーターソン、ブルーイ(インコグニート)がSTR4TAを結成し、アルバム『Aspects』を通じて、歴史のなかに埋もれていたブリット・ファンクの存在を世に知らしめたのが2020年のこと。二人はその後も、2022年の次作『Str4tasfear』でストリートソウルに光を当て、イギリス音楽史の再編を迫るように作品を発表してきた。 そして2024年、ジャイルスと彼が主宰するブラウンズウッド・レコーディングスの次の一手はアシッド・ジャズの再解釈だ。象徴的グループのひとつ、ガリアーノ(Galliano)が復活し、28年ぶりのアルバム『Halfway Somewhere』をリリースした。この流れは、STR4TAで80年代のUKを再検証したあと、そこから連なる1990年代のアシッド・ジャズにも取り組み始めたと言えるだろう。 アシッド・ジャズはよく知られているにもかかわらず、その実態をうまく言
いま、台湾でフリージャズの新しい動向が盛り上がりを見せている。恥ずかしながら、今回このインタビューを実施するまで、わたしはそのことを捉え損ねていた。もちろん、これまでもノイズや実験音楽、サウンドアートなどに関しては、台湾に独自のシーンがあることを認識していた。フリージャズを演奏するミュージシャンが何人か存在することも把握していた。だがジャズのシーンとなると、いわゆるスタンダードで保守的なものしかないと思い込んでいた。 しかしこれは大きな勘違いだった。台湾には約100年前の日本統治時代まで遡ることのできる独自のジャズの歴史があり、21世紀に入ってからは台湾ならではの要素を取り入れた実にユニークなアルバムも多数リリースされてきている。そして2010年代以降、ノイズのシーンとも交差しながら、台湾のジャズの歴史は新たな段階に入っていたのだ。そうした台湾フリージャズの立役者の一人が、サックス奏者・謝
ルイス・コール・ビッグバンドの衝撃は本当に大きかった。ルイス本人を含む6人の海外メンバーと、日本人6人によるホーンセクションが織りなす、自由自在な演奏。譜面とフリーフォーム、同期と生音、あるいは笑いとシリアス、相反する要素をアクロバティックに結びつける彼の音楽は、ビッグバンドという概念と遊びながら、未来への風穴を開ける痛快なものだった。 そんな彼が、フェイバリットレコードをTOWER VINYL SHIBUYAでハンティング。「最近、プレイヤーを修理したところだから、またレコードを買おうと思ってるんだよね」と話しながら、どんどん手にとっていった10枚のアルバム。そのチョイスには、単に彼自身を作ってきた音楽の歴史の紹介だけでなく、音楽から時代を超えた可能性を旺盛に摂取し続けている〈今〉が濃厚に表れていた。
エズラ・コレクティヴ(Ezra Collective)の来日公演が3月7日(火)に東京、9日(木)に大阪のビルボードライブで開催される(東京公演はソールドアウト)。Rolling Stone Japanでは前回取材したリーダー/ドラマーのフェミ・コレオソに引き続き、彼の実弟であるベーシストのTJ・コレオソにインタビューを実施。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。 エズラ・コレクティヴは現在のロンドン・ジャズにおける象徴的存在の一つだ。その理由はジャズを軸にグライムやアフロビーツ、ヒップホップなどを取り込んだロンドン独自のサウンドのみならず、近年のロンドンにおける草の根レベルから始まった音楽教育を経ていることだったり、ロンドンらしい多文化性を表現している音楽性だったり、様々な側面から語ることができる。そういう観点からも、TJ・コレオソのキャリアはとても興味深い。 TJは名門音大出身者のエリートた
インタビュー | 2024.06.04 Tue VIDEOTAPEMUSICがたどり着いた滞在制作という方法論——地域の物語を読み解き、音楽を紡ぐこと 中古VHSに収められた音や映像をサンプリングしながらメロウでエキゾチックな音楽を生み出してきたVIDEOTAPEMUSIC(ビデオテープミュージック)。 近年、彼は各地域に一定期間滞在し、地域の歴史や物語を音に変換する滞在制作を各地で繰り返している。 新作『Revisit』は、2019年以降のそうした試みをまとめた作品集だ。 群馬県館林市、長崎県長崎市野母崎、高知県須崎市、長野県塩尻市、佐賀県嬉野市、そしてVIDEOTAPEMUSICの出身地からも近い多摩湖(東京都東大和市)。 本作は各地で録音されたフィールドレコーディング音源や現地で採集したさまざまな音素材、それらからインスパイアされたメロディーとリズムが渾然一体となりながら、アンビエン
この国のダブのオリジネイターにして、ミュート・ビートやソロ、プロデューサー、そして現在では“THE DUB STATION BAND”を中心とした活動を続けるこだま和文。そしてメッセージ性とポップスとしての力強さを兼ね備えた、唯一無二のファンク・グルーヴを紡ぎ出す、思い出野郎Aチーム。この2アーティストの対談を組んでみようと思ったの昨年末のことだ。2019年後半に入ってリリースされた、それぞれの作品がどこか同じ響きを根底で持っていることを感じたときだった。詳しくは後述するが、ともかく彼らを引き合わせた記事を作ってみたい…… 本稿はそんな編集部の思いが結実したものだ。相も変わらず世の中は混乱している、でも音楽を聴き続ける、そして音楽を作り、演奏し続ける人たちがいる、日々の暮らしを送るために。 取材・文 : 河村祐介 写真 : 小原泰広 LPリリースも2020年初夏に決定!本格始動14年目にし
ノウワー、ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディ(Photo by Yukitaka Amemiya ) ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディによるLA発のユニット、ノウワー(KNOWER)が前作『Life』から実に7年ぶりとなる最新アルバム『KNOWER FOREVER』をリリースした。共にブレインフィーダーに所属しながら充実したソロ活動を送ってきた二人だが、ここからはその意味深なタイトル通り、ノウワーというユニットでしか生まれえない何かが確実に聴こえてくる。 今回、11月に「なぜか」来日していた二人に話を聞く機会を得たので、この機会にノウワーについてゼロから掘り下げることにした。お互いのことをどう見ていて、一緒に活動するうえでどんなことを考えているのか。現在の活躍ぶりを考えたら今更な質問をしているように思われるかもしれないが、二人とも7年前とは立ち位置がすっかり変わってい
「道端に落ちているものを、みんな本当に必死に探している」 サニーデイ・サービス『いいね!』を通して曽我部恵一が考える批評的なものをはじき出してしまう音楽 サニーデイ・サービスの最新アルバム『いいね!』が5月22日にCD・アナログ盤としてリリースされた。この『いいね!』というアルバムは、先鋭的で斬新なサウンド・プロダクションと預言的な世界観をもって構築された近年の作品群、『Popcorn Ballads』(2017年)、『the CITY』(2018年)、『the SEA』(2018年)とは明確に一線を画したものである。これらの作品群は、サニーデイ・サービスというバンドがシーンの最先端を独走していることを広く知らしめ、10年代の音楽シーンを象徴すると言っても過言ではない、いわばバンドが築き上げた巨大な財産とも言うべきものである。しかし、新ドラマーとして大工原幹雄を迎えたサニーデイ・サービスは
2010年代初期の日本のインディシーン、その前夜|Teen Runnings × Super VHS × Elen Never Sleeps 当事者による鼎談 話題の中心になるのは主にUSインディと共鳴 / 同期していた2011年から2012年の日本のインディシーンについて。それ以降から現在に到るまでの彼らが見た光も闇も含めた真実。 2011年から2012年、そのたった2年の間で日本と世界では何が起きていたのだろうか。現在、海外のインディシーンで活躍する中堅以降のバンドには、この時期の前後にスタートしたバンドが多いほどに局地的にシーンは膨れ上がっていた。そして、それらの点在したシーンを繋ぎ合わせ、潮流の形成に大きな役割を果たしていたのは世界に無数にあった個人のブログだった。個人ブログが大きな力を持ち、彼らはプレスリリースの文章をコピペするのではなく、自分達が感じた曲への想いや感想をただひた
ドラマ主題歌と普段の活動の橋渡し ──今回発売のミニアルバムには、2019年8月に配信リリースされた楽曲「朝顔」が表題曲として収録されます。約1年半越しにこの楽曲をCD化することになった経緯はどういったものだったのでしょうか。 「朝顔」はドラマ「監察医 朝顔」の主題歌ということもあって、今まで自分が活動していたフィールドとは違うところでも聴かれていたんですけど、思っていた以上に今でもCDで音楽を聴く人が多いみたいで。「CDはないのか!」ってすごい言われたんですよ(笑)。そのことがずっと頭に残っていて。それで今回「監察医 朝顔」の2クール目の放送に合わせて、CDという形で出すことにしました。 ──シングルではなくミニアルバムという形を選んだのはなぜでしょう。 「朝顔」はドラマのために書いた曲だということもあって、自分のレパートリーの中で浮いている存在という気がしていて。なので、「朝顔」の周り
大ヒットを記録した衝撃作『Black Radio』でブラックミュージックの常識を塗り替えたロバート・グラスパー。ジャズの新しい地平の先には、どんな未来が広がっていたのか。ジャズ評論家の柳樂光隆がインタビュー。 ロバート・グラスパーが2012年に発表した『Black Radio』は歴史を変えた作品だった。ジャズ、R&B、ヒップホップといったジャンルの壁を越えて2010年代の音楽シーンを活性化させたばかりでなく、トレンドの移ろいが激しいこの時代に、発表から10年が経過した今も影響力が衰えないタイムレスな名盤でもある。 今年発表されたシリーズ最新作『Black Radio Ⅲ』には、ハービー・ハンコックいわく名実ともに「シーンのリーダー」となったグラスパーが育み、広げてきたコミュニティの豊かさがそのまま収められている。そこには祈り、怒り、時に悼みながら、アフリカン・アメリカンのコミュニティへの貢
メタルという音楽を深く広く掘り下げ引き伸ばし、その魅力を現代的な視点によって再定義した『現代メタルガイドブック』の出版からもうすぐ1年が経つ。 2022年に和田信一郎(s.h.i.)氏の監修によってele-King booksから発表された『現代メタルガイドブック』は「新しいメタルの教科書」として紹介されているが、まさにその役割を果たした素晴らしい本だ。有難いことに自分もディスクレビューにて参加させていただき、かなり大きな影響を受けた。 詳しくはele-kingのサイトにて確認できる『現代メタルガイドブック』の内容一覧を見ていただきたいのだが、今までになかった視点によってメタルが解釈/再考され、メタルという音楽の幅広さと楽しみ方が提示されている。監修をされたs.h.i.氏の圧倒的な知識量と愛情によってまとめられた『現代メタルガイドブック』はメタルのファンは勿論、メタルを知らない/興味がない
90年、31歳で亡くなった音楽家・渡邉浩一郎。70年代後半からソロや様々なユニットで活動し、ウルトラ・ビデやマヘル・シャラル・ハシュ・バズなどに参加した彼は、膨大な音源を遺している。それらを友人有志が整理したCD『まとめてアバヨを云わせてもらうぜ』(91年発売、2013年新装再発)と、2021年12月15日(水)に発売となる『マルコはかなしい―渡邉浩一郎のアンチ・クライマックス音群』の編集に携わったGESO氏(第五列)に、話を訊いた。インタビューは、これまた謎の多い第五列とGESO氏自身の話から始まる。 謎多き集団〈第五列〉とは何なのか? ――GESOさんは第五列としての活動が知られていますが、第五列とは何だったのでしょうか。どのようにメンバーが集まり、何をしようとしていたのでしょうか。 「メンバーのうち、私とあかなるむ(村中文人)は青森高校の同窓生です。部活も同じ放送委員会で、飲み友達で
カッサ・オーバーオール(Kassa Overall)がまもなく来日。10月19日に東京・渋谷WWW X(チケット完売)、20日にビルボードライブ大阪、21日に朝霧JAMに出演する。ジャズの未来を切り拓く革新的ドラマー/プロデューサーが、アヴァンギャルドな実験精神と独自の美学、名門Warpも太鼓判を押す野心作『ANIMALS』の制作背景を語った。インタビュアーはジャズ評論家の柳樂光隆。 ― 『Animals』のコンセプトを聞かせてください。 カッサ:このアルバム・タイトルにはいくつかの意味があるんだ。これまで発表してきた大半の作品タイトルと同様に、1つのワードで様々な意味のメタファーとして解釈できるようなタイトルをつけたかった。まず、ミュージシャン/エンターテイナーとして、俺は自分が「サーカスの動物」のようだと感じている。ステージで歌う際はオーディエンスを興奮させるくらい荒れ狂ったようにブチ
MENUCLOSE あの人に聞いてみたい、「書く」ことの話。今回は、游書体など数々の書体づくりに関わるだけでなく、一年かけて自分の仮名をつくり、それをフォント化する塾「文字塾」を主催されている書体設計士の鳥海修さんにお話を伺いました。 Interview, Text:内田 咲希 / Photo:岡庭 璃子 鳥海修 1955年山形県生まれ。(有)字游工房の書体設計士。同社の游明朝体、游ゴシック体、(株)SCREENホールディングスのヒラギノシリーズ、こぶりなゴシックなど100書体以上の開発に携わる。字游工房として2002年に第一回佐藤敬之輔賞、ヒラギノシリーズで2005年グッドデザイン賞、2008東京TDC タイプデザイン賞を受賞。2022年dddギャラリーで個展「もじのうみ」を開催。著書に「文字を作る仕事」(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、「本をつくる」(共著)がある。私塾「松本文字塾」
KKV Neighborhood #212 Dialogue - 2024.3.19 斉藤正人 (Pervenche) x 佐鳥葉子 (Penny Arcade)対談 進行、構成 by 与田太郎 2022年リリースのPervenche『quite small hapiness』が静かに世界へ広がっている。このアルバムのリリースがきっかけとなり※800 cherriesやClover Recordsのカタログ再発へと繋がった。いろんな出来事の起点となったこのアルバムを紹介してくれたのが佐鳥さんだった。その佐鳥さんのPenny Arcadeも来月35年ぶりの新録の曲をリリースする。斉藤さんもソロのリリース、そしてThe Moment of Nightfallという新しいプロジェクトの音源を完成させたこともあり、20年以上に渡る斉藤さんと佐鳥さんの関わりについてお二人に話を伺った。時代ごとの距離
2019年、『U.F.O.F.』と『Two Hands』という2つの傑作によって、名実ともにUSインディーを代表するバンドになったビッグ・シーフ。そのフロントウーマンのエイドリアン・レンカーはソロ・アーティストとしても優れた作品を発表しており、このたび『songs』と『instrumentals』という2作を一度にリリースした。マサチューセッツの山小屋で録音されたという歌とアコースティック・ギターによるその音楽は、コロナ禍で混沌とした浮世から隔絶した内面世界を描き出している。 時を同じくしてリリースされたのが、ケイト・ステイブルズを中心としたバンド、ディス・イズ・ザ・キットの新作『Off Off On』だ。ナショナルのアーロン&ブライス・デスナー兄弟に愛される彼女の才能は、これまで以上に伸びやかに、ポップに花開き、フォーク・ミュージックの新たな可能性に挑んでいる。 今回は、高橋健太郎と岡村
水谷:そろそろVGA(VINYL GOES AROUND)でコンピレーションでも作ろうという話になったのって去年(2023年)の秋くらいでしたね。 山崎:VGAはレアグルーヴのイメージが強いという事もあって、いろいろ案を出しあった結果、「アンビエント・ブームへのレアグルーヴからの回答」というコンセプトができて取りかからせて頂きました。 水谷:一概には言えないのですが直球の70年代ソウルが今の時代にフィットしないような感覚があり、また思った以上にスピリチュアル・ジャズが盛り上がっている背景もあったので、その辺にカテゴライズされているものを中心に静かな楽曲をアンビエント的な解釈でコンパイルするのは面白いかもねというのが当初の話でした。そもそもアンビエントの定義とは何なのでしょうか? 山崎:ブライアン・イーノが提唱した「環境に溶け込む、興味深くかつ無視できる音楽」というのが定説ですが、境界線は曖
ナラ・シネフロが名門Warpから発表したデビューアルバム『Space 1.8』は、昨年大いに話題になった。彼女はUKジャズ・シーンとも交流があり、ハープとモジュラーシンセを奏でるカリブ系のベルギー人ミュージシャン。ガーディアン紙やPitchforkが絶賛し、ロンドンの人気ラジオ局NTSのレジデンスを務めるなど、その音楽性はすでに高く評価されているが、肝心のキャリアについては今も謎に包まれたままだ。「Space 1」「Space 2」「Space 3」……という曲名もよくわからないし、ネット上を検索しても、アーティストとしての情報や本人の発言はほとんど見当たらない。 1月14日にリリースされる『Space 1.8』国内盤CDのライナーノーツを執筆することになり、彼女に取材を申し込もうと考えた。上述したような事情もあって難しそうにも思われたが、紆余曲折を経てインタビューが実現した。自分で言うの
「完全なものができたら終わってしまう」 サイケアウツとは何か? 変異するサンプリング・ダンス・ミュージック 大阪を拠点とする《EM Records》はこれまでにも数多くのリイシュー音源やコンピレーションをリリースしているがその作品たちの素晴らしさは言わずもがな、いずれも懐古主義に陥らずそのタイミングだからこその新たな発見をもたらしてくれるようなものばかりだ。そしてこの度、リリースされた『逆襲のサイケアウツ:ベスト・カッツ 1995-2000』もまさにそんな作品だろう。 ヴェイパーウェイヴをはじめとするウェブ上のコミュニティから生まれた音楽によって変化していくサンプリングの概念や近年のジャングルやレイヴ・ミュージックへの再評価といった流れの中で、一貫してサンプリングという手法を駆使した制作を行い国内におけるジャングル/ドラムンベースの代表的存在とされるサイケアウツの歴史をパッケージした作品が
Simon BootheことSimon Emmersonは80年代にイギリスで起こったアシッドジャズのムーブメントの最重要人物でした。WeekendやWorking Weekといったグループでジャズとポップ、そして、DJ/クラブの要素を融合したサウンドを生み出し、イギリスのみならず、イギリスから大きく影響を受けた日本における「ジャズ」の意味合いを変えました。彼が日本のポップ・ミュージックやクラブシーンに与えた影響はかなりの大きさだと思います。 2022年、ジャイルス・ピーターソンにインタビューした際に、ジャイルスがサイモンの話をしてくれたことがありました。本文とは関係ない部分は記事の流れ上、割愛したのだが、とても素晴らしいコメントだったので、ここに掲載します。 僕は80年代のイギリスにおける「ジャズ」の再解釈が当初はトレンドやオシャレではなく、ある種の「パンク」的な意味合いを持っていたと思
〈OTOTSU〉は、diskunion DIW によるデジタル・キュレーション&ディストリビューションサービスです。詳しくはこちら HOMEINTERVIEWsuzukiski インタビュー | 日本エレクトロニック・ミュージックシーンの才人、スズキスキー。デビュー作『Thought』から『Ozma』に至るまで、各作品の制作背景や当時のシーン、レイ・ハラカミとの交流などから振り返る。 suzukiski インタビュー | 日本エレクトロニック・ミュージックシーンの才人、スズキスキー。デビュー作『Thought』から『Ozma』に至るまで、各作品の制作背景や当時のシーン、レイ・ハラカミとの交流などから振り返る。 2022 7/06 Photo by:Kozaburo Sakamoto 日本のテクノ黎明期から活動を開始し、シーンが発展・多様化していく中、独自のスタンスで魅力あふれるエレクトロニ
ロサンゼルスのジャズ・シーンで活躍し、それだけでなくヒップホップやビート・シーン、R&Bからロックと幅広い舞台でセッションしてきたサンダーキャットことステファン(スティーヴ)・ブルーナー。2017年にリリースされたアルバム『ドランク』は、それまで見せてきたベースやギターの超絶プレイを披露するだけではなく、シンガー・ソングライターとしての魅力にも大きく踏み込んでおり、それによってAOR調の “ショウ・ユー・ザ・ウェイ” をはじめ、ポップな側面を見せる場面もあった。ケンドリック・ラマー、ファレル、ウィズ・カリファらから、ケニー・ロギンス、マイケル・マクドナルドに至る多彩なゲストも話題を呼んで、世界中のさまざまなメディアから絶賛される大ヒット・アルバムとなった。 しかしサンダーキャット自身はそれに浮かれたりすることなく、何よりも自分は常に前に進んでいる存在でありたいと、2018年8月末に〈ブレイ
黒澤よう(元・ポートレイツ)、大沢建太郎(元・北園みなみ)、佐藤望(カメラ=万年筆/婦人倶楽部)の3人からなるバンド……だったOrangeade。ライヴの機会こそ少ないものの、別のフィールドで活躍してきた3人が集まったという話題性を超え、洗練されたソングライティングと洒脱なポップセンスで彼らは支持を集めてきた。が、しかし。2019年10月1日、大沢が〈著しい素行不良〉により〈解雇〉されるという、前代未聞の展開に。 以前からファンをハラハラとさせてきたOrangeadeが、ここにきてなんと、新メンバーとしてシンリズムを迎えることを発表した。さらに、バンド名を〈conte(コント)〉に改めて再スタートを切る。10代半ばからソロ・アーティストとして活躍してきたシンリズムが加わることで、バンドはどんな変化を見せてくれるのだろう? その答えは、改名の発表と同時に届けられた新曲“季節を狙え”にあるかも
インタビュー | 2023.07.20 Thu 屈指のシンセ愛好家・齋藤久師が語る、ハードウェア機材を使い続ける理由 往年の名機をエミュレートしたものから先鋭的なサウンドを生成するものまで、多種多彩なソフトウェア音源/エフェクターが揃う現在、楽曲制作の大部分をPCの内部で完結させることは、ことエレクトロニック・ミュージックの領域においては、決して珍しいケースではなくなった。 しかし、そのような中でも頑なにハードウェア機材にこだわり続けるアーティストがいることも確か。 そんな「ハード派」の筆頭に挙げられるのが、アーティスト/サウンド・デザイナーの齋藤久師である。 ソロ・ワークでもパートナーであるLenaのソロ・ユニット「galcid」を始めとしたプロデュース・ワークでもハードウェア・シンセサイザーを活用し、大手電子楽器メーカーの製品開発やプリセット音色の作成にも携わる屈指のシンセ愛好家・齋藤
「京都市内を巡りながら、アートをテーマに語ってもらえませんか?」 それ以外のお題はなしで、京都のアートに深く関係する3人にお願いしました。引き受けてくださったのは前編に引き続き、研究者・アートディレクターの石川琢也さん。KYOTO EXPERIMENT共同ディレクターのひとり、ジュリエット・礼子・ナップさん。そしてロームシアター京都の広報・事業企画を担当する松本花音さん。昼編で最終的に飛び出したのは「食」というキーワード。出町柳界隈を食べ歩きながら、3人はどのような話をするのでしょうか? 1 中国菜 燕燕 住所/京都府京都市上京区今出川通寺町西入ル大原口町211-1F 中国出身シェフが作る本格中華料理。中国の江南地方にある古民家をモチーフに白を基調としたお店。中国政府機関公認資格(評茶員)を持つ日本人オーナーが厳選した中国茶も充実しており、紹興酒など多様な中国のお酒も楽しめる。 2 日本酒
レコード・アナログ | 2021.04.05 Mon 世代をつなぐカセットテープ DJ KENSEI x Ren Yokoi 80年代ディスコ時代、90年代HipHopの黎明期から今に至るまで、最前線かつ最深部にまで活躍の場を広げるDJ KENSEI。そしてラッパーZeebraを父に持ち、現代のダンスミュージックシーンの最前線を切り開く90年代生まれのRen Yokoi。 Analogue Foundation One hour Mixtapeを通して出会ったアナログ世代とデジタル世代の2人のDJ。カセットテープに若くから慣れ親しんだDJ KENSEIと今回がカセットテープへ初録音のRen Yokoi。この2人の対談から、この先未来に残したい音質や音色のヒントが隠されているかもしれない。 左: 1996年発売のキングギドラの1stアルバム『空からの力』のカセットアルバム。このアルバム制作中
UKのジャズシーンで特異な立ち位置を築いてきたブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats)がついに初来日。恵比寿ガーデンプレイスに新しく生まれた「BLUE NOTE PLACE」のオープニングステージに登場した。旧来的なライブハウスではなく、DJブースも常設された会場は、ビートメイカーやDJとライブ・ミュージシャンを並列でカジュアルに楽しめるような作りになっていた。マルチ奏者Mr DMの生演奏とNK-OKのプロダクションを組み合わせてきたブルー・ラブ・ビーツにぴったりの会場だったと思う。 彼らのライブで強く印象に残ったのは、アフロビート/アフロビーツのこなれたサウンド。NK-OKのビートはもちろんだし、Mr DMの演奏も素晴らしかった。例えば、ベーシストのモードになれば特異なリズムパターンに合わせて絶妙にグルーヴするし、ギターソロのフレージングも洗練されたハイライフのようだった。
ロックバンド「サニーデイ・サービス」のフロントマンとして活躍する曽我部恵一さん。 2020年。新メンバーが加入したバンドは全国ツアーを予定していたが、新型コロナウイルスの影響で開催が延期に。さらに、緊急事態宣言下で東京・下北沢に出店した自身のカレー店も「コロナ対応」に追われた。 未曾有の事態の中、曽我部さんは5月にソロ名義で楽曲「Sometime In Tokyo City」をリリース。歌に込めたメッセージとは。 (聞き手・構成・写真:J-CASTニュース 佐藤庄之介) バンド新体制で生まれた「攻撃的」で「虚無的」なアルバム インタビューを行ったのは2020年12月10日の夜。場所は曽我部さんがオーナーを務める下北沢のカレー店「カレーの店・八月」だ。閉店時間後、店内で取材に応じてくれた。店内はスパイスの匂いが漂う。いい香りですね、と尋ねると、曽我部さんは「これがとんこつラーメン屋とかだった
カーネーションが2年ぶりの新作『Carousel Circle』をリリースする。バンド結成40周年となる2023年の末尾を飾る通算19作目となるアルバムは、ベテランらしい多様な音楽性を内包しながらも、カーネーションそのものとしか形容しようのない個性に彩られた珠玉の作品だ。オトナの成熟と味わい、そして40年目を迎えてもなお衰えぬ探究心と冒険心、そして極上のポップセンスと手練れの演奏は、やはり別格だ。直枝政広(Vo / Gt)と大田譲(Ba / Vo)に話を聞いた。 ──2年ぶりの新作です。今作の制作はどういうところから? 直枝 昨年末くらいから動き始めて。今年結成40周年の節目なので出さねばならぬ、ということですね。40という数字には意味はないですけど、節目、節目でうまくステップに使えるので。 ──40年。大変な年月ですね。 直枝 気が付いたら、ですよね。 大田 俺は32年くらい。91年から
2003年に1stアルバム『Songs For A Leap Year』をリリースして以降、その歌世界をマイペースに磨き上げてきたテライショウタのソロ・プロジェクト、GOFISH。通算7作目となる新作『GOFISH』は、前作『光の速さで佇んで』(2021)以降取り組んできたバンド・スタイルでの作品となった。 潮田雄一(g)、中山 努(pf)、元山ツトム(pedal steel)、墓場戯太郎(b)、藤巻鉄郎(dr)、そしてコーラスの井手健介と浮。彼らの奏でる緩やかなバンド・アンサンブルに抱かれながら、テライは日常の中にかすかな希望を見出すような言葉を綴っていく。決して派手さはないものの、その歌は聴くもののなかに温かな火を灯すような力を持っている。 20年を超えるキャリアを通し、テライはいったい何を歌ってきたのだろうか。そして、7作目にして初めてセルフタイトルが掲げられた新作『GOFISH』で
90年代に巻き起こったガールポップのムーヴメントは、主にソロの女性ポップス歌手やシンガー・ソングライターを中心としたシーンとして認知されている。その誕生のきっかけとなったのがソニー・マガジンズから刊行された雑誌『GiRLPOP』で、’92年に創刊されている。その創刊号の表紙を飾ったのが渡瀬マキだった。 アイドル歌手・渡瀬麻紀として’87年に18歳でデビュー。活動は順調かに見えたが、アイドルとしてはシングル3枚のみを残し、バンド活動へとシフト。’88年にリンドバーグを結成して、’89年に再デビューを果たす。’90年にセカンド・シングルの「今すぐKiss Me」がオリコン・シングル・チャートで1位を獲得し、以降、順調にヒットを出し続け、日本を代表するロック・バンドへと成長した。’02年に渡瀬の出産・子育てのために解散するも、デビュー20周年の’09年に1年限定の再結成を経て、’14年に本格的な
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