夜中まで仕事をしていて手洗いに立ち眠気覚ましに歯を磨いてると、顔見知りの別の部署の社員が入ってきた。彼女はぱっと顔を輝かせて私の使っていた電動歯磨きの商品名を宣言した。うれしそうだった。かわいい人だなと私は思う。中年にさしかかった私よりさらにひとまわり年かさだけれども、でも、ずいぶんと無防備に見える。 彼女が自動販売機の前で立ち止まったので、コーヒーか日本茶でよければ淹れますよと私は言う。彼女はふたたび、見ていて不安になるような邪気のない笑いかたをして、コーヒー、と発音する。 私のセクションにはもう誰もいなかった。彼女は私の出したカップをうれしそうに両手で包んだ。私がうつむいて笑うとどうしましたと訊くので、だってあんまりうれしそうだから、と私は言った。彼女は左手の親指でこめかみを二度三度と押さえ、それからひっそりとほほえんで言う。私は今なんでもうれしいんですよ。どうしてかっていうと、遭難の