子供のころのある日、家に帰りつくと大いびきが聞こえてきた。もっとも、父がフリーランスだった僕にとっては普通のこと。なるべく邪魔しないように、一人でおとなしくおやつを食べていた。 しかし、しばらくすると玄関ドアの開く音がする。なんと父が帰ってきたではないか。じゃ、じゃあ、さっきのいびき声は、ま、ま、ま、まさか泥棒――? 血の気の多い父と鉢合わせしたら(泥棒が)殺されてしまう! ど、どうすれば穏便にことが済むだろう!? とり――とりあえず包丁を隠さないと!! …… 動揺のあまり我ながら発想がかなり飛躍しているが、なにしろ子供だから仕方ない。包丁を隠しながら、「1 しょうたいふめいのそんざい*1 (0)」を父にどう説明すればいいか考えあぐねる僕の苦労など知るよしもなく、彫りの深い顔立ちの若い男性がひょっこり出てきて、父と普通に言葉を交わした。その人は泥棒ではなかった。そのころちょうど住むところが
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