ギルバート・キャプランというアメリカ人がいて、この人は“マーラーの『復活』だけを振る指揮者”として知られている。本業は出版ビジネスで成功をした実業家だが、以前読んだ話によれば、なんでも若い頃に希代の名指揮者、ストコフスキーの演奏をナマで聴いて以来、キャプランは、『復活』の虜になる。そして中年になり、ビジネスマンとして功成った暁に、『復活』を自らの手で演奏したいと指揮のトレーニングを始めるのである。それまで音楽に関しては、ずぶの素人だった人がである。 なにせアメリカで成功した人だから、お金はたっぷりある。教育のために専門家を雇うのは訳がない。だとしても、巨大な邸宅や、豪華ヨットや、贅沢な旅行といった事柄に稼ぎを投入する金持ちはいても、「『復活』を指揮するために」お金と時間とを注ぎ込む金持ちは、どこを探してもキャプラン以外にいないはずだ。本当に好きなことを究める熱意が、他人から見ればほとんど狂
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