苦虫を噛みつぶしたような表情で人を罵る、強面の女性患者Aさんとの思い出を語ろう。 Aさんが僕に口撃を向けることはさほどなかったが、通院に同伴してくれる娘さんに向ける悪口といったら、 「私はどこも悪くない。何の役にも立たない娘に病院に連れて来られて困っている」 といった酷いものだった。 にも関わらず、真面目に母親の通院に付き添い続けた娘さんとAさんの間には、僕には計り知れない彼女らなりの親子の情愛というものがあったのだろう。 高血圧症、2型糖尿病、脂質異常症、多発脳梗塞、そして慢性腎臓病。 初めて会った時点で既に満身創痍だったAさんの主訴は「物忘れ」だったのだが、僕としては物忘れよりも、いかに全身状態を安定させ維持させるかが大事だった。死んでしまっては、物忘れも何もあったものではない。 家庭の事情で内服のチャンスは1日1回しかなく、その中で懸命に処方を工夫した。 デイサービスやケアマネから届
