ヨハネスブルク駐在の特派員時代、筆者の悩みはアフリカに関する記事を書いて日本の本社に送っても、それがなかなか掲載されないことであった。この現実は、誰が特派員になっても簡単には変わらないだろう。アフリカに対する日本人の関心の相対的な低さを思えばやむを得ないと分かってはいるものの、現場の記者にとっては残念なことである。 だが、悪いことばかりではなかった。アフリカ駐在特派員は本社から半ば忘れられた存在なので、本社の意向を忖度(そんたく)して原稿を執筆する必要がないのである。ましてや、ある特定のニュースについて東京から執筆命令が来ることは、まずない。「日本向け」の記事を執筆するよう有形無形の圧力を受けることがないので、アフリカではほとんど問題視されていないような事実を「日本向け」に敢えて大騒ぎし、針小棒大な原稿を書く必要もない。 現場の記者は、目の前で起きていることを、自らの知見と感性に基づいて忠
今年2月、TPPへの参加反対を訴え東京・霞が関の官庁街をデモ行進する全国のJAグループの青年部員ら (C)時事 政権浮揚を賭けたという動機はともかく、TPP(環太平洋経済連携協定)に参加することで日本経済を復興しようとしたことは、菅政権の数少ない正しい選択だった。しかし、日本人は奇をてらった本を読むのが好きなようだ。世の中はTPP反対本花盛りである。 最初に、農業についてTPP反対本を出したのは、農文協という農業関係の出版社である。農文協は続いて、農業だけではなく、経済一般、医療、労働、環境などの分野についても、TPPで日本は滅亡するかのような本を出版した。御丁寧に、私の著書『農協の大罪』を批判した「『農協の大罪』の大罪」なる小論文を農協学者に書かせている。その後、『TPP亡国論』(中野剛志著)、『国家の存亡』(関岡英之著)、『間違いだらけのTPP―日本は食い物にされる』(東谷暁著)、『T
在日米軍基地で有名な青森県三沢市を抜け、本州最北端の下北半島を車で北上すること約30分。でこぼこの目立っていた狭い国道が、突然、高速道路のように広く平坦な道に変わる。それが六ヶ所村に入った証だった。 六ヶ所村は、下北半島の太平洋側に位置する村だ。面積は大阪市よりも広いが、人口は1万1千に過ぎない。かつては「日本の満州」と呼ばれた貧しい村だった。畜産や漁業以外に産業は乏しく、冬になると東京へと出稼ぎに向かう村民も多かった。しかし、1980年代半ば、原子力発電のための核燃料を再処理する工場を誘致したことで状況は一変した。 今や六ヶ所村は、全国有数の豊かな自治体となった。1人当たりの村民所得は年1364万円(2008年度)と、青森県の平均237万円を6倍近く上回る。1人当たり所得には企業所得も含まれ、単純に個人の所得水準を指すものではない。とはいえ、再処理工場の誘致で、六ヶ所村が以前とは見違える
東日本大震災に関する復興構想会議が船出早々、揺らいでいる。 震災と東電福島第一原発の事故への初期対応が後手になり、批判を受ける菅政権。菅直人首相は、復旧から復興にカジを切ることで巻き返しを図ろうとしている。構想会議は、その目玉のはずだったのだが……。 会議は震災後の日本の将来像を有識者の見地からまとめ、6月に1次提言、年内に答申を出すことになっている。 防衛大学校の五百旗頭真校長を議長に、建築家の安藤忠雄氏、東大教授の御厨貴氏、脚本家の内館牧子氏、臨済宗住職で作家の玄侑宗久氏ら各界の著名人が集った。顔触れは重厚だ。この会議で夢のある提言を出して日本に元気を取り戻す。そして政権も上昇気流に乗る――。菅首相はそう目論んでいる。 だが議論は初日の4月14日から、脱線ぎみだった。五百旗頭議長は、今回の震災について「16年前(の阪神大震災)が、かわいく思えるほどだ」と発言。今回の悲惨さを強調しようと
もしある日、人々が「生きたい」と願ったら 運命は応えてくれるだろう 夜は明け染める 手鎖は切れ落ちる 生命を追い求めない者など、切に望まない者など 煙と消えていく、吹き散らされる アブー・カースィム・アッシャーッビー「生への願い」『生命の詩集』より チュニジアでベンアリー政権が崩壊した時、多くのアラブ世界の知識人たちがこの詩を連想したという。この詩を書いた夭折の詩人アッシャーッビー(Abu al-Qasim al-Shabbi; 仏語表記はAbou el Kacem Chebbi 1909-1934)は、チュニジアのトズールに生まれ、たった1冊の詩集を残してこの世を去った。死の遥か後の1955年にエジプトで刊行された『生命の詩集』は、アラブ近代のロマン派詩の最大の到達点とされる(M. M. Badawi(ed.),Modern Arabic Literature, Cambridge Un
誤作動や故障を前提としたフェールセーフの仕組みと多重防護に加え、過剰なまでの耐震設計に守られて、日本の原子力発電所にはTMI(米スリーマイル原発)もチェルノブイリもあり得ない――。東京電力と経済産業省が豪語し、マスメディアのほとんどが信じ込んできた原発の安全神話は今、木っ端みじんに崩壊した。 東電の福島第一原発では、3月11日の東北太平洋沖地震(M9.0)のあと、原子炉が次々に炉心溶融を起こし、廃炉覚悟の海水注入に踏み切っても、まだ安定したクールダウン、冷却・停止には至っていない。ただでさえ巨大地震でダメージを受けている周辺住民に、不便な避難生活を強要せざるを得ない状態が続いている。
告別の辞を述べる機会もなく辞任することになったムバーラク前大統領(c)AFP=時事(AFP PHOTO / EGYPTIAN TV) エジプトでは急速に事態が進展し、2月11日にはムバーラク大統領が辞任してエジプト政治は暫定的な軍政に移行した。全権を掌握した国軍最高評議会は2月13日に憲法を停止し、議会を解散。6カ月を目途に、新憲法を制定し、議会選挙と国家元首の選出を終えて、文民政府に権限を移譲する意思を発表している。1月25日に始まった反政府抗議行動は、18日間のデモで、ムバーラク政権を崩壊させた。 アル=ジャジーラやBBCやCNN、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの速報、そしてツイッターやフェイスブックを用いた現地からの発信で、世界中が見守る中、盤石と見られていた権威主義体制の権力が崩壊する過程が逐一報じられ、体制が「壊れる」過程が詳細に分析された。 これが真の「革命」
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