→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](32) 今年の演劇界は異例なほど、ギリシア悲劇を題材とした舞台が多かった。2500年前に起源を持つギリシア悲劇に、特段エポック的な何かがあったわけではないが、現状が見えにくくなってくると、演劇の原点たるギリシア悲劇が繰り返し呼び出されるのだ。足元を見つめるために根源に回帰する無意識の表われだろうか。 もっともギリシア悲劇とは何かといった原理的思考と、この風潮はあまり関係がない。新国立劇場では新しい芸術監督に就任した鵜山仁の最初の企画が「ギリシャ悲劇」を原作にした現代劇シリーズだった。3人の劇作家が3人のヒロイン――クリュタイメストラ、メディア、アンチゴネー--を元にして新作を書き下ろすというもので、現代にギリシアの古典はどれだけ再利用可能かが問われたといったところか。 こうした流れに乗ったわけでもないだろうが、ギリシア文化研究に長年研鑽されてきた
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