言葉の仕事にはそれぞれ、機能する時間差があるように思います。 最も速いのは報道やジャーナリズムであり、何事が起きているのかを情報として伝えることがその第一義的な役割です。次にルポタージュやノンフィクション、報道の大きな枠組みから取りこぼされた細部を伝える言葉がやってきます。 作家の役割は、最後にやってきます。断絶からこぼれ落ちてきたかけらをひろい、無謀にも全体像を描こうとすること。人の経験や生の営みは、調査票やアンケート用紙に書ききることはできません。 「地獄」の風景が目の前に存在しているにもかかわらず、その地続きに頑丈な「日常」があります。それらを行き来していると、世界には断絶があるような感覚におそわれます。 2011年3月11日の震災が起きてからというもの、福島で暮らす人たちはみな、焼き切れるような感覚の中で走り続けてきたように思います。「あの日」は、いろんなことがありました。 浪江町