世の中にいるのはみんないい人だと思っていた。僕は二十七歳で、パリ近郊の鉄道駅にいて、一文無しになったところだった。 会社が海外でMBAを取らせてくれるというからフランスに行くことにした。ラッキー、と思った。学校では主に英語を使うけれど、現地語もできなくちゃいけない。ぜんぜん休めなくて、「ちょっとこれはまずいかもしれないな」と思ったところで大学の休業期間に入った。バックパックを背負って周辺をくるりと回って、住処の近くのターミナル駅まで戻った。そんなに長くフランスに住んだわけでもないのに、早くもホーム感があった。部屋に帰ったら、すごくだらしない格好で寝そべって、何ひとつしないで眠りこんでやろう、と思った。 おい、あんた、コートがえらいことになってるぞ。声をかけられて自分の背中を見た。もちろん見えない。声をかけてきた男は斜め上から僕の背中をのぞきこみ(僕だって小さくはないけど、彼はアフリカ系で、
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