作家石原慎太郎は、前にいたやじ馬の尻に銃弾が当たるのを見た。 昭和40年7月、うだるような暑さに包まれた東京の夕刻。渋谷でのことである。 すでに渋谷は異様な事態に陥っていた。駅前(タワレコのほうだった……)にある「ロイヤル銃砲店」をぐるりと警官やパトカーが取り囲み、またその周囲には、ライフルの銃弾が無差別に飛び交っているにもかかわらず、数千人のやじ馬が集まっていた。石原もまた「渋谷がえらいことになってるぞ!」と友人から聞き、三崎のヨットハーバーに向かう予定を変更して、やじ馬の一人にくわわったのだ。 すでに山手線もストップしてしまい、まるで電線に止まった鳥のように線路には多くの人々が集まっては、事件の行方を見つめつづけ、あるいは店に向かって投石を繰りかえしていた。空には爆音を轟かせながらヘリコプターも飛んでいる。ロイヤル銃砲店に立てこもった少年が次々とライフルを発砲し続けたため、警官とやじ馬