「イングロリアス・バスターズ」鑑賞。 タランティーノの映画を見終わると普段の映画鑑賞では滅多に味わえない充足感をもって劇場を出る事になる。単に「おもしろかった!」だけで終わらない。しばらくはその映画の事を思い出してニヤニヤさせられるような特別な満足感。「あぁ、オレはこういう出会いを求めて映画館に来ているんだな。」とか「あぁ、アイツとアイツ殺して死のうと思ってたけどまだ生きててよかったな。」と、幸せを噛み締めるのである。 そのQTの新作であるから、何があっても見たいと思っていたのだが、とある事情*1で大変に忙しく、休日もフル回転なのであった。が、他の(サム・ライミ以外の)誰かならともかく、QTの新作を上映しているのに見れてないなどという事態はボクにとっての最恐の責め苦なので、またもや仕事を中断して見てきました。 もはやグゥの音も出ぬとはこのことだ。 タランティーノというと代名詞的に取り沙汰さ
「母なる証明」鑑賞。 ポン・ジュノ監督の新作。 オープニング、秋の枯れただだっ広い丘の遠くからオバサンが歩いてやってくる。時間をかけてカメラの前まで来ると立ち止まる。周囲の枯れた葉がザワザワとたてる音の中にブウウンと蠅の羽音が一瞬聞こえ、死の予感を漂わせた刹那、オバサンが踊り出す。 なにやらよくわからない漠然としたイメージの連続だが、映画が終わる頃にハっとするのだ。 若干の知恵遅れの息子にかけられた殺人の疑いを晴らすために、真犯人を見つけんと孤軍奮闘するお母さんの話。なんだけど、映画の焦点は『母親』という属性の性質に集中して合わせられている。決して事件の顛末をないがしろにしているワケでは無いのだが、あくまで母親を描くための背景として事件が存在する。その背景によって浮かびあがる『母親』の性質とは息子への底なしの愛であり、その愛が大いなる畏怖をもって描かれる。 映画の序盤。友達に会いに行くと鉄
『第2回したまちコメディ映画祭in台東 前夜祭オールナイト 復活!映画秘宝ナイト』にて「The Hangover」鑑賞。 日本での劇場公開作は去年の始め頃に約15年も前のデビュー作「全身ハードコア GGアリン」がシアターNにかかった事があるだけというワケのわからない事になっている監督、トッド・フィリップスの最新作。アメリカでは興行収入2億ドルを突破した超ヒット作でありながら、日本での公開が決まっていない。というか、監督がハリウッドに移っての「ロードトリップ」「アダルト・スクール」リメイク版「スタスキー&ハッチ」と、それぞれアメリカ公開時にランキングを賑わした傑作群が、ことごとくDVDスルーという冷遇に処されているのは、まったく理解に苦しむばかりである*1。もし、ここを読んでいる人の中で上記した作品に見逃しているものがあったら、まずはレンタル屋へ走るべきなのだ!さあ走れ! あかちゃんクニャっ
「しんぼる」鑑賞。 ダウンタウン松本人志監督2作目。 ずいぶん前。ダウンタウンがまだ若手で十把一絡げの内側にいた頃。「ひょうきん大学」とかそんなタイトルだったと思う。若手芸人にさまざまな『師匠』が講義をするという番組に、横山やすしが講師として若手芸人に激を飛ばすという回。 「最近のコンビ名はイカン!ワケがわからん!「やすし・きよし」やったらワイがやすしや。で相方がきよしや。」とワケのわからない言いがかりをつけだした。 そして、「オラ!おまえんとこのダウンタウンってのは何なんだ!」と当時のダウンタウンの2人に絡んだその刹那、松本が「ボクがダウン松本で、相方はタウン浜田です。」と真面目くさった顔で返した。周囲はもちろんそれがウソだと知っているので「あのやっさんを相手に適当な事を言った!」とバカうけ。隣に座る浜田も松本の頭をはたくが、それでも表情を崩さずやっさんを見つめ返す。やっさんは周りの空気
「サマーウォーズ」鑑賞。 監督の前作「時をかける少女」はテアトル新宿を立ち見も辞さないほどの人々で溢れさせ、拡大公開にいたるヒットを飛ばした。ボクはそんな火中の栗を拾うほどの前向きさは無くて、見逃していた「ゆれる」を池袋の文芸座に見に行ったら同時上映だったという後ろ向きな偶然によって見たのだが、それでも面白かったし「ゆれる」と同じくらい強く記憶しているのだから、相当に力のある映画なのだと思う。 その監督の新作という事で、あんまり混みあうのも嫌なのでしばらく見送っていた。「もういいかげん適度に空いているだろう」と思ったこの週末でさえ満員御礼。3時間以上前にチケットカウンターへ行っても残り席数はひとケタ。その次の回も7割方埋まっているというロングラン状態。公開直後にはチケットが取れずに関東近縁上映館を流浪する“サマーウォーズ難民”さえ出たと聞く。で、他の映画を見に行ったらチケットが取れそうだっ
「チョコレート・ファイター」鑑賞。 「マッハ!!!!!!!」のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督が新人女優ジージャーを主役に迎えたムエタイ・アクション映画。 「マッハ!!!!!!!」が登場した時のショックは常套句で使われる以上の、本当の意味で「革命的映像」だった。それまでアクション映画の最前線でジャッキーが押し進めてきたスタイルだって相当に危険な事をしていたし、それまでのアクション映画の“限界”だって突破していた。ジャッキー自身の身体能力も相当ハイレベルな物だった。 しかし「マッハ!!!!!!!」はそのさらに上を行った。具体的には、ジャッキーがベストだった頃の上を行く身体能力をもったトニー・ジャーによる、もうこれ以上は不可能というまでに命の値段がダンピングされた映像であった。 ヒジやヒザという人体の中でも堅い部分をいかに勢いよく相手の急所に当てるか?という野蛮さを突き詰めて鮮麗させたムエタイ技
「ウォッチメン」鑑賞。 原作は80年代中頃に発行されて以来、アメコミの金字塔として賞賛され続けている大傑作。当然、映画化の話も発売された当時からあって、実際ボクがこのコミックの存在を知ったのは「未来世紀ブラジル」日本公開時にテリー・ギリアムが『ボクの次回作はコレになるよ!』とハイテンションでインタビューに答えていた時だから、かれこれ20年前という事になる。 で、映画化が頓挫し続けて今日のザック・スナイダー版に至っているワケなのだが、今まで製作されそこねていたのには理由があった。この「ウォッチメン」というコミックは、『コミック』という形態を極限まで活かした物語であったからだ。 例えばキャラクターがセリフを言う、その後ろにある壁のラクガキが市民の鬱屈した声を代弁し、風に吹かれて飛んで行く新聞には社会情勢が記されている。巻末に挿入される架空の出版物、インタビュー、書簡などが物語のバックグラウンド
「フェイクシティ ある男のルール」鑑賞。 LA暗黒専門作家ジェイムス・エルロイ自身の脚本による、アメリカン・ノワール。 ボクはブ厚い本が読めないので、エルロイは「ホプキンス」シリーズしか読んでいない。主人公の刑事、ホプキンスは2メートルを越す巨大な体躯のクセに“ブレーン”とあだ名される程キレ者で、超がつく女好き。そして子供の頃ワッツ暴動時に負ったトラウマで大きな音が苦手。狡猾な犯人を追うのだが、シリーズを重ねるごとにホプキンスの精神状態は悪化していき、3冊目では正義のために正義を踏みにじる“正義狂人”と化していく。ボクはそんなに刑事ものを読まないのだけれど、唯一と言ってよいほど熱心にシリーズ全部(と言っても3冊だけど)を読んだ。 中庸さがまるで無い、アクセルベタ踏み、ギアはトップかバックか、いずれにせよ猛スピードで活動し続けていなければ爆発してしまうようなキャラクターに惚れた。 日本を代表
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」鑑賞。 “レンタルルーム”から出て来たスッとした美男子とモデルと見紛う長い四肢の美女の、学生服を着たカップルを見て「イイなぁ!オレも学生に戻りたいよ!」と三十も半ばを過ぎたオッサンが言う時、それが不可能だから安心して「戻りたい」と言うのである。 本当に戻る事が出来るなら戻るか?ボクはごめんこうむる。もう、あんなに早く起きる事は出来ないし、夜だって長過ぎる。金は今よりもっと無い。朝から午後3時過ぎまで90分の授業をみっちり聞く気力なんて当時から無かったのに、今はもっと無い。部活でのニキビ面の“先輩”のしごきにだって耐えられそうにない。 だいたい、モデルみたいな美人はパンク*1やヒップホップ*2を聞いて、毎週新宿の映画街に入り浸っていたボクに見向きもしなかったじゃないか! 恨み節はよいとして。「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、老人の体で生まれ、年を追う
「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」鑑賞。 「タイタニック」は近年で一番知られている恋物語だとして異論は無いだろう。情熱的だが貧乏な画家志望のデカプリオと、一流の社交界に身を置きながら満たされない想いをいだくお嬢様ケイト・ウィンスレットの恋は、タイタニック号の崩壊と共に燃え上がり、そして一緒に儚く散る。その2人が約10年の時を経てふたたび共演した事でも話題の作品だ。 この映画のキャッチコピーは「それは、誰もが逃れられない<運命の愛>」「あなたの最愛の人は、あなたを愛していますか?」ア〜イアイ!ア〜イアイ!おさるさん並に“アイ”の乱れ撃ちである。公式HPの、どの宣伝文句やコラムを見ても「愛」の文字は必ず謳われている。 まぁ、それも語弊は無いと言える。ただ、この映画は非常に誠実に「愛」と、その先にある「理解の幻想」までも見据えてしまったが故に、いわゆる『ラブ・ストーリー』からは逸脱
「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」鑑賞。 お札が燃えるのを見た事がある。1万円が灰皿の上でメラメラと燃えあがり黒い炭に変わり果てるその瞬間を、この目で目撃した事がある。 飲み会でヒューヒュー言って盛り上がった席での事だ。紙幣独自の紙が燃える色をベースに、各色のインクが炎に様々な色をつけ、幻想的であり、紙幣価値も鑑みると背徳的な気分にもなり、これはなかなか有るものでは無い、正に“有り難い”ものを見たと、かしわ手の一つでも打ちたい気分になった。 「トロピック・サンダー」だが、主演にベン・スティラー、ジャック・ブラック、ロバート・ダウニーJrというそれぞれ、他の映画で主演クラスの俳優たちがメインのキャラクターを勤める。オープニングすぐに「映画内の役として、それぞれの俳優が主演した映画」という呈のニセ映画予告があるのだが、それぞれ「ニューラインシネマ」や「フォックス・サーチライト」など競合他
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