シェアリングエコノミーという新しい経済の動きが広がっている。車、部屋、スキル、時間…。何でも他人と共有(シェア)できる社会の先に、何が待っているのだろうか。 ■「私たち」の孤独、和らげる 石山アンジュさん(シェアリングエコノミー協会渉外部長) 7年ほど前から、海外旅行の際、個人の部屋に宿泊す…
【書評】『情報武装する政治』/西田亮介・著/角川書店/1600円+税 【評者】大塚英志(まんが原作者) 森友問題でひどくあからさまになってしまったのは、安倍界隈の情報戦の露骨さと稚拙さだ。自民党が在野時代、いち早くSNSをつかった情報戦に手を染めたことはよく知られるが、著者はそれを「政治の情報武装」と呼ぶ。考えるに、世論をあからさまに「工作」することが透けて見えながら、世論が自らそれに「乗る」という「参加型動員」、「協働型動員」を確立したことが安倍一強の根底にある。 自分から国民が喜々として動員されプロパガンダの前衛となる、というのはかつて近衛新体制の見た夢だったが、あの時は、webは存在せず、同じように反動・復古を「革新」と言い繕う安倍政権がそれを実現したのは偶然ではないだろう。「協働」である以上、「情報武装」したのは国民も同様で、実際、今回もSNSの各所で自発的な情報戦が繰り広げられて
※柳田國男『北小浦民俗誌』(昭和二四年、三省堂)の抜粋を、当記事最後部に掲載しています。 大塚英志『感情化する社会』 太田出版 柳田國男『郷土生活の研究法』 Kindle版 今回は「歴史とは何か」について考えましょう。手がかりはいつものように柳田國男です。 しかし、その前に私たちが何と無く考えている「歴史」とはどのような姿をしているか確かめておきましょう。 この章を書いている現在、世の中では、公文書の「改竄(かいざん)」が問題となっています。 何故、公文書の「改竄」が問題なのか。その理由は明確で「歴史」というのは「公文書」に基づくものだからです。歴史学が基礎資料とするのは、それぞれの時代に書かれた為政者たちの公の記録です。歴史の資料というと教科書などに「崩し字」の文書の写真が載っているのをイメージする人もいるでしょうが、あれが大抵の場合、その時代時代の「公文書」です。つまり、歴史学とは公文
【1】「工作員」はAIにとって代わられる職業リストにあるか 2月に起きた、あるいは、この原稿を書いている3月7日の時点で、進行中の出来事を思い出してみる。 2月11日には、三浦瑠麗がTVのワイドショーで以下のような「テロリスト分子」発言を行ったという。 「実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されても、スリーパーセルと言われて、もう指導者が死んだっていうのがわかったら、もう一切外部との連絡を断って都市で動き始める、スリーパーセルっていうのが活動すると言われているんですよ」「テロリスト分子がいるわけですよ。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今ちょっと大阪ヤバいって言われていて」 (大山 くまお「"工作員妄想"と批判された三浦瑠麗氏『大阪やばい』発言の情報源」 http://bunshun.jp/articles/-/6259) 「スリーパーセル」というのは、ラノベ
「平成」の最後の一年を記録しておくエッセイを考えていた矢先、西部邁が自死した。去年、ぼくのほうが論壇を遠く離れて久しいが、彼の主宰する雑誌の座談会に突然呼ばれ、久しぶりに少しだけ話した。「こんな身体になってしまった」と手袋をはめた手を差し出す姿は弱々しかったが、それでも座談会では冗舌だった。「近代」というものをどこまでも懐疑する西部と、「近代」を断念するべきではないと考えるぼくの立場は一致するはずもないが、互いの話はおだやかにすれ違った。 それから少しして西部から新著『保守の真髄』が送られてきて、あとがきに自死を考えていたとしか思えないくだりがあったので、あわてて、「自死など考えずにだらだらと書き続けるべきだ」という一文を含む書評を書いた。掲載は先だというので、ひどくのんびり出て来たゲラを昔の教え子に運営してもらっている事務所のツイッターに載せておいたのが1月11日だ。世間の人のそれより2
【書評】『保守の真髄 老酔狂で語る文明の紊乱』/西部邁・著/講談社現代新書/840円+税 【評者】大塚英志(まんが原作者) 「保守」の人々がずっとぼくには奇妙なのは、この国の現在が近代によって損なわれたとする被害者感覚だ。例外は江藤淳で、「近代」が女性たちに一度開いた可能性を奪ったことへの奇妙な怒りがあったが、その江藤でさえ、戦後を占領軍によって損なわれた言語空間として描いた。 「保守」の人々は、「近代」をそのつど、「戦後」や「民主主義」や「憲法」や「左翼」に象徴させ、「近代」によってかつてこの国にあった美徳が破壊された、だからそれを回復せねばならない、と呪詛する。 だが、戦時下の「新体制」に関する当時の資料を調べていくと、同様の近代への被害者意識が繰り返し語られていることに気付く。当時は「近代」は「アメリカニズム」(その意味では今は「中国」が嫌悪すべき近代の象徴なのだろう)と名指しされた
年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? まんが原作者の大塚英志氏は、「『保守』とは何か」を読み解く本として、『MUJIBOOKS 人と物 花森安治』(花森安治・著/良品計画/500円+税)を推す。大塚氏が同書を解説する。 * * * 戦時下、翼賛会の主導の下、「翼賛一家」なる長谷川町子ら複数の作家が同一の町内・家族のキャラクターをシェアして描くまんががあった。ナチスドイツの近隣組織を模倣した隣組のプロパガンダのためのものだ。 資料に当たっていくと頻出するのが「日常」ということばで、実は戦後の新聞4コマまんがに於ける、ほのぼのとした町内や家族という「日常」は、実はこの時「作られた」ものだ。 この「日常」は町内の外、つまりは歴史や現実から乖離した世界であり、小津安二郎の映画も含め戦時下に「日常」の再構築がされたことは今一度、注意しておいた方がいい。す
「平成」が終るので「平成のおたく」について書いてくれと言われ送ったら「少々政治への言及が多」い、ので安倍ちゃんのくだりをカットしてくれとのことなので、こちらから掲載をお断りした原稿です。忖度面倒です。『日本がバカだから戦争に負けた』の梗概になっているので、最前線行き、ということで。(大塚) 来日したトランプへ安倍政権が胸を張ってお披露目した日本文化が、孫娘お気に入りのはずのピコ太郎で、しかし、その孫娘が三字経と唐詩を暗唱する動画を習近平に披露する様子を見て、なるほど、去年、川上量生が現代の日本は教養もはや『ジャンプ』だと身も蓋もなく指摘したことを改めて痛感した。川上は欧州中央銀行の会見でドラギ総裁に女性が襲いかかった時、webで「女性の南斗聖拳にドラキ総裁が気功砲で応戦した」と語られたことを例に、「知的な笑い」を表現しようとした時に引用されるのが、もはや古典ではなく『ジャンプ』であるという
2017年11月14日 12:00 大塚英志×西川聖蘭『クウデタア 完全版』刊行インタビュー:アンラッキーなテロ少年と戦後文学者をめぐっての雑談 【聞き手】碇本学 【制作】大塚八坂堂 ・置き換え可能なアルファベットの名前を持つ主人公たち ---- 今回刊行になった『クウデタア 完全版』についてお話を聞かせていただきます。前作にあたる藤原カムイさんと組んだ『アンラッキーヤングメン』から今作までかなり時間が空いていますが、『アンラッキーヤングメン』の時にはこの作品は構想されていたのでしょうか? 大塚 ぼくはどんな作品もだいたい三部作で構想するんだけど、『アンラッキーヤングメン』が1970年前後の全共闘運動で、『クウデタア 完全版』が1960年の安保闘争、もう一つは1950年(昭和25年)を舞台にした三つの作品で三島由紀夫が狂言回しになって、「光クラブ事件」を軸にアプレゲールを描くという漠然とし
ニュース・お知らせ 『東京オルタナティヴ』原作者・大塚英志氏インタビュー #特集/注目記事2017/09/05 東京に3発目の原爆が落ちた世界と落ちていない世界を舞台にした『東京オルタナティヴ』が連載開始。1950年代末の少年テロリストを描いた『クウデタア』『クウデタア2』に続き、まんが家・西川聖蘭さんとまんが原作者・大塚英志さんが放つ最新作は一体どういう作品になっていくか、なぜこの作品を今やろうと思われたのかを原作者の大塚英志さんに作品について聞かせていただきました。 ●『東京オルタナティヴ』は『東京事件』の続編? ── 『ヤングエース』誌上で連載が始まった新作『東京オルタナティヴ』は旧作『東京事件』の続編ということでしょうか? 大塚: 続編というより、正確には「仕切り直し」です。キャラクターや設定の一部は踏襲しているし、『東京事件』を以前に読んでいた読者が整合性をつけようと思えばつくよ
2017年10月29日 13:00 大塚英志インタビュー 工学知と人文知:新著『日本がバカだから戦争に負けた』&『まんがでわかるまんがの歴史』をめぐって(4/4) 【聞き手】 碇本学 【提供・制作】 大塚八坂堂 ・アヴァンギャルドを受け継いでいった作家たち ---- アヴァンギャルド芸術から戦前、戦中、戦後のものが手塚少年の元に集まるというか結集されて彼のまんが表現になっていきました。そこから戦後のまんが史が始まっていきます。 大塚 しかし、それは手塚の身の上だけの話しではなかったんだよね。彼はちょうど思春期の真っ最中だったけど、少し年上だけど三島由紀夫がいる。彼はレニー・リーフェンシュタールの『オリンピア』(『民族の祭典』『美の祭典』の二部作を指す)というナチスドイツの映画を観てこれが機械芸術なんだっていうね、直接的な言い方ではないけど機械芸術論を知っていないとわからないような作文を学習
2017年10月28日 13:00 大塚英志インタビュー 工学知と人文知:新著『日本がバカだから戦争に負けた』&『まんがでわかるまんがの歴史』をめぐって(3/4) 【聞き手】 碇本学 【提供・制作】 大塚八坂堂 ・大正アヴァンギャルドとミッキーの書式 ---- それでは続いて『まんがでわかるまんがの歴史』について聞かせてください。以前から大塚さんは「鳥獣戯画」はまんがの起源ではないと言われていますが、この本はそこから始まります。 大塚 だって、違うし。 ---- ええ、最初はキャラクターの組み合わせ方である「ミッキーの書式」などについて書かれています。 大塚 基本的にキャラクターの成り立ちや歴史的な背景に関してだね。 ---- 妖怪というのは江戸時代に生まれたキャラクターというところや読んでいて一番驚いたのは『のらくろ』を描いた田河水泡がアヴァンギャルドの前衛芸術家だというところでした。
2017年10月27日 13:00 大塚英志インタビュー 工学知と人文知:新著『日本がバカだから戦争に負けた』&『まんがでわかるまんがの歴史』をめぐって(2/4) 【聞き手】 碇本学 【提供・制作】 大塚八坂堂 ・「人文的な知」と「工学的な知」をブリッジする共通言語がないために起きるディスコミュニケーション ---- 川上量生さんについては第3章『「教養」は工学化されるのか』から取り上げられています。 大塚 角川四代っていうのが星海社からのリクエストだったから。 ---- そうなんですか。 大塚 うん、太田くんが川上について書いて欲しいみたいでさ。川上についての章が彼の一番のおすすめだそうです。 ---- この中で大塚さんのワークショップ用の絵本『きみはひとりでどこかにいく』についての話があって、川上さんは「解」を出すと書かれていました。解答というのは工学の話ですよね。彼は絵本に自分で何か
2017年10月26日 18:04 大塚英志インタビュー 工学知と人文知:新著『日本がバカだから戦争に負けた』&『まんがでわかるまんがの歴史』をめぐって(1/4) 【聞き手】 碇本学 【提供・制作】 大塚八坂堂 ・80年代以降の角川書店のプラットフォームがメインで書かれなかった理由とは ---- 新刊の星海社新書『日本がバカだから戦争に負けた 角川書店の教養の運命』とKADOKAWAから発売になる『まんがでわかるまんがの歴史』についてお話を聞かせていただきます。 最初に『日本がバカだから戦争に負けた 角川書店の教養の運命』は先日まで『角川書店と「教養」の運命 プラットフォームから工学知へ』というタイトルでしたが発売前になって急遽変更になりました。これはやはり今回の選挙と関係がありますか? 大塚 うん、選挙は直接には関係ないけれど、ああ、何で、こんなになっちゃったんだろうね、っていう文脈に本
【書評】『騎士団長殺し』(第1部 顕れるイデア編・第2部 遷ろうメタファー編)/村上春樹・著/新潮社/各1800円+税 【評者】大塚英志(まんが原作者) 村上春樹の新作の評判が今一つのようだ。今になって同じ話の繰り返しだ、という批判は散見するが、『羊をめぐる冒険』以降、同じ構造の反復をずっとしてきたのに今更、言われてもな、と村上に同情する。 不評というより、正確には、いささか扱い兼ねているという印象で、それは、南京大虐殺への言及があるからだろう。しかしそれも『羊』なら北海道開拓民、『ねじまき鳥クロニクル』ならノモンハン事件といった歴史を神話的な「受難」の象徴として引用してきたことの繰り返し以上のものはない。 いつもの村上なのに南京虐殺ひとつで遠巻きにする世論も何だか。だが、前作『多崎つくる』が百田尚樹よりは良質の歴史修正主義の寓話になっていたのと同様、今回も、あくまで南京虐殺で「殺した」側
※柳田國男「祭礼と世間」の抜粋を、当記事最後部に掲載しています。 大塚英志『感情化する社会』 太田出版 ピーター・ミラー『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』 東洋経済新報社 ボイド(Boids)と呼ばれるCG用のプログラムがある。1986年にCGの専門家レイグ・レイノルズが開発した鳥の群れの動きを再現するプログラムである。数百、あるいは数千かそれ以上の個体からなる鳥の群れが無限に変化する動きをシミュレートするプログラムは、さぞかし複雑だと素人は考えるが、そのためにプログラム上の「鳥」に命じたのは以下の3つの規範だといわれる。(ピーター・ミラー著『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』東洋経済新報社) 1、他のボイドに近づき過ぎないこと。 2、近隣のボイドの向かう平均的な方向を自分の方向とすること。 3、近隣のボイドの平均的ポジションに移動すること。 この3つの命令だけで鳥の
■「理科」と「経世済民」で照らす 著者大塚英志はアニメやサブカルチャー論で知られているが、大学では民俗学を千葉徳爾の下で学び、その後もその問題を考えてきた人である。千葉は柳田国男の弟子であった。著者にとって、柳田について考えることと、千葉について考えることは切り離せない。そして、千葉を通して考えることは、通常考えられているのとは違った柳田を見いだすことになる。 民俗学はもともとロマン派文学的であり、それはドイツではナチズムにつながり、柳田の弟子たちもその影響を受けて「日本民俗学」を作りあげた。柳田はそれを退けた。そして、そのような柳田の側面を受け継いだのが千葉である。二人には、共通する面がある。その一つは、彼らがいわば「理科」的であったことだ。千葉徳爾は自らを地理学者と呼び、民俗学者であることを否定した。柳田も自分の学問を民俗学と呼ぶのを拒み、「実験の史学」と呼んだ。この「実験」という言葉
File Not Found. 該当ページが見つかりません。URLをご確認下さい。 お知らせ 事件・事故のジャンルを除き、過去6年分の主な記事は、インターネットの会員制データベース・サービスの「京都新聞データベース plus 日経テレコン」(http://telecom.nikkei.co.jp/public/guide/kyoto/)もしくは「日経テレコン」(本社・東京 http://telecom.nikkei.co.jp/)、「ジー・サーチ」(本社・東京、 http://www.gsh.co.jp)のいずれでも見ることができます。また、登録したジャンルの記事を毎日、ネット経由で会員に届ける会員制データベース・サービス「スカラコミュニケーションズ」(本社・東京、http://scala-com.jp/brain/) も利用できます。閲読はともに有料です。 購読申し込みは下記のページから
柳田國男の昭和6年の論文に「世間話の研究」がある。 「世間話」は80年代に流行した都市伝説に対応する民俗学の側の術語として理解されがちだが、いつも注意を促すように、この論文は『綜合ヂャーナリズム講座 第11巻』(雑誌ヂャーナリズム、記事篇、昭和6年10月20日、内外社)に収録されているものだ。柳田の文章がしばしば誤読されたり、難解に思えるのは、その論文が発表された時代背景や掲載誌といった「文脈」を無視するからであり、柳田という人は常にその時点での文脈の中に過度に寄り添って論述するのが特徴である。従って、怪談や都市伝説的世間話論への関心から読もうとする限り、「世間話の研究」は殆どその主旨を読みとれない。今、紹介した掲載されて叢書の名と巻の主題から、まず、これはジャーナリズム論であり、そして「記事」のあり方をめぐってのものである、と承知しなくてはいけないのである。 それでは何故、この時期、柳田
【書評】『柄谷行人講演集成 1995-2015 思想的地震』/柄谷行人・著/ちくま学芸文庫/1000円+税 【評者】大塚英志(まんが原作者) ぼくが「まんがの描き方」を教える旅を始めたのはアジアとの「領土問題」がきな臭くなり始めた頃だ。2012年の秋、中国で反日デモの嵐が吹き荒れた直後、日本人の姿が消えた北京にいた。その時、中国の友人が「今、北京にいる日本人は柄谷行人と大塚だけだよ」と笑った。日本文学の講義を北京の大学でしていたらしい。 ぼくも柄谷も狙ってそのタイミングでというのではなく、偶然、そうなって、しかしぼくが北京行きを辞退しなかったように、彼もその必要を感じなかったのだろうとは思う。ぼくはむしろその偶然に感謝し、「描き方」という「方法」を携えて文化と文化、国家と国家を「越える」ことは案外と悪いことではない、と思った。そして初めて柄谷の言う「トランスクリティーク」が実感できた。 柄
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