◇声なき同僚、鎮魂の場 急勾配(こうばい)の坂を登ると、館山の海とミニチュアのような街並みが眼下に広がる。小高い丘の上に位置する「かにた婦人の村」(天羽道子施設長)。施設内には入所者がパンづくりや陶器づくりに従事する作業棟や農園、教会が並び、それらを見下ろす丘の上に「噫(ああ)従軍慰安婦」と書かれた石碑(高さ約2メートル)が建っている。 かにた婦人の村は65年、東京都のプロテスタント系社会福祉法人「ベテスダ奉仕女母の家」が母体となり、故深津文雄牧師が設立した婦人保護長期収容施設だ。1956年の売春防止法成立を受け、障害のある元売春婦が長期間生活する施設として建設された。 施設には深津牧師の墨書が今も残る。「かにたとは、そこを流れる小さな川の名前でした。(中略)そのほとりに捨てられた、いとも幸うすき女性百人の、共に住む村の名前となりました」。ノンフィクション作家・沢木耕太郎氏が72年に発表し