坂本龍一が発表した数々の音楽作品を紐解く連載「追悼・坂本龍一:わたしたちが聴いた音楽とその時代」(記事一覧はこちら)。第5回の書き手は、編・共著『カン大全~永遠の未来派』(2020年、ele-king books)をはじめとするさまざまな仕事で知られる音楽評論家の松山晋也。「編曲家/演奏家としての坂本龍一」に着目し、15の名曲&名演に加えて、矢野顕子『ごはんができたよ』(1980年)をとりあげてその卓越した手腕について執筆してもらった。 最初に告白しておくが、私は作曲家・坂本龍一の熱烈なファンだったことはない。よきリスナーでもなかったと思う。半世紀近くのキャリアで遺された膨大な数の作品のなかには、『千のナイフ』(1978年)や『B-2 UNIT』(1980年)をはじめ、愛聴したものは少なくないが、実際、心の底から感銘を受けたのは『async』(2017年)や『12』(2023年)など最晩年