大規模な山火事に悩むオーストラリアで、先住民アボリジニーの伝統を温室効果ガスの排出削減に生かす試みが進んでいる。数万年前から受け継いできた延焼を防ぐ知恵で排出をどれだけ減らせるのか。科学的に計算して「排出権」として売ることも可能になった。 北部準州の州都ダーウィンから車で3時間余り、1800平方キロのほとんどを森林が占めるフィッシュリバー地区。気温45度、ワニが泳ぐ川を渡り、熱風が吹く大地を進むと、水牛やカンガルーの群れが、土ぼこりをたてて通り過ぎる。 しばらく行くと、黒こげの木々が並ぶ森が現れた。「ここは外部からの人間の失火で燃えてしまった。木が枯れたままでは動物も来ない。一度死んだ森は生き返るのに何年もかかる」。同地区で自然保護活動をする先住民レンジャー、ジョン・デイリーさん(46)が表情を曇らせた。乾期のうちでも最も乾燥する8月に山火事が起きたのだ。 だが、離れた場所にある別の森に入