<1. 兆し> 彼女が結婚を意識したのは、26歳くらいの頃だった。 つきあって5年ほどの彼は同じ職場の同僚で、頼りがいのあるやつに見えた。二人の関係も良好だったし、結婚するのは自然な流れだと思っていた。ただ、プロポーズの言葉や、それを自分がどう受け止めたのかについて、彼女には記憶がない。 結婚が決まり、どんな式にするかの話し合いが始まってから、雲行きは怪しくなった。 ちょうど人前式というスタイルが導入され始めた頃で、信じてもいない神に結婚を誓うというのもおかしい、と考えた彼女は「人前式でやろうよ」と彼に提案してみた。着るものもお仕着せの文金高島田やウェディングドレスではない、ちょっと自分らしいオリジナリティのあるものにしてみたかった。 彼の反応は、微妙なものだった。だが、特別な反対というものもなかった。どうしても女性の方が結婚式の準備には夢中になるもの。そのときの彼女には、彼の無反応はそれ