そのとき、少女はそのきゃしゃな指に逆さまの刃を握り締める。しかし、それでも王子は流れ落ちる血に気づかない――。 漁師たちが、晩にたいまつをともして、海の上で漁をしながら、若い王子のうわさをしてほめているようなことが、よくありました。お姫さまは、それを聞くたびに、この王子が、いつかあれくるう波にもまれて、いまにも死にかかっていたとき、自分が、その命をたすけてあげたのだと思うと、うれしくてなりませんでした。そして、王子の頭が、自分の胸の上にじっともたれていたことや、王子のひたいに、心をこめてキスをしたことなどを思い出すのでした。でも、王子のほうでは、そんなことはなんにも知らないのです。お姫さまのことなどは、夢にも思ってみたことがありませんでした。 いまは夜、深夜も深夜、シンデレラだって硝子の靴のことも忘れベッドに入りぐうすか眠っている、そんな頃合い。 ほんとうならぼくもさすがにあしたに備えて寝
