非常に評価の難しい本だなというのが読後の実感だが、論として見ずに簡易な便覧というか日垣隆の言うリファ本のようにとらえるなら、まず一定の水準として意義があることはたしかだ。 「多民族国家 中国」(参照)の内容は標題通り、多民族国家としての中国を扱っているのだが、この立ち位置が微妙なものだ。当初私は偏見があって、後でふれるつもりだが東トルキスタンの近況情報を得たいものの、中国様の鼻息を伺うことになるかなとも思った。が、そうとも言えない。下品な視線でいけないと思うのだが、細君が日本人らしいこと、謝辞に安井三吉(「帝国日本と華僑―日本」)と山内昌之(「イスラームと国際政治」)の名が上げられていることからも、なるほどそのあたりの線かと納得する。本書は、民族問題について日中間の今後の学術的な合意のラインというのはこのあたりかなというのの参考にもなるが、残念ながら現実の政治のダイナミズムというのはそうし