昭和11年の二・二六事件に一兵士として巻き込まれた経験を持ち、剣道の達人で、高座を降りれば、無愛想この上なし。平成14年に87歳で世を去った五代目柳家小さんは、いわゆる芸人らしくない落語家だった。 ▼といっても、落語通の作家、江國滋によれば、けっして石頭の持ち主ではない。「バクチもいい、酒もいい、女もいい、ただいやしい心の人間になってはいけない」。これが信条だった。 ▼たとえば弟子の一人が、「明治神宮の初詣で、着飾った娘さんのお尻をなでてきました」と報告するのをニコニコ聞いている。ところが、「ついでにお賽銭(さいせん)を拾ってきました」などと言おうものなら、烈火のごとく怒ったという(『落語無学』)。 ▼政治家にも当てはまる。「政治家に徳目を求めるのは、八百屋で魚をくれと言うのに等しい」という“名言”もあった。重要なのは、国の一大事に際しての身の処し方である。今、まさにその時が来た。 ▼きの