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桐野夏生が「日没」に記す、社会に充ち満ちる怪異
着火する言論 白い手袋を嵌(は)めた運転手が優雅にドアを開け、濃紺の車から琥珀色の髪をした女性が降... 着火する言論 白い手袋を嵌(は)めた運転手が優雅にドアを開け、濃紺の車から琥珀色の髪をした女性が降り立った。「綺麗な外国のひとだなあ。この会社に何のご用だろう」とぼんやり眺めていたら、「キリノ先生だ! いらっしゃった!」と、周囲の編集者たちがバタバタ走って行き、はっと我に返る。 自動ドアが開き、風が流れた。女性はゆっくりと歩み入ってきた。その一見国籍不明な美しいひとこそ、『顔に降りかかる雨』や『OUT』、『柔らかな頬』や『グロテスク』や『メタボラ』や『東京島』で、あの惨殺と解体と、繰り返す異常な性と狂気と、抑圧と崩壊と嘆きと叫びを書いた小説家、桐野夏生だったのだ。 小説の中に生き、小説のために生きている作家は、作品世界をそのまま身に纏っているかのようだ。桐野夏生が座る空間は、それすら既に物語の中のようで、現実離れしていた。 コロナ禍でお互いの監視を強め、疫病対策がいつの間にかイデオロギーの
2020/12/22 リンク