岩波文庫が好調だ。赤帯でクローデル『繻子の靴』の渡辺守章新訳、ジョイス『若い芸術家の肖像』の大澤正佳新訳が相次ぎ、『アーネスト・ダウスン作品集』にロペ・デ・ベガ『オルメードの騎士』、それにプリーストリー『夜の来訪者』という渋いところをヒットさせる。緑帯も負けてはいない。村井弦斎『食道楽』『酒道楽』の連打(『女道楽』は無理か)に田山花袋の『温泉めぐり』。五人づれ『五足の靴』という珍品を発掘するかと思えば続いて北原白秋『フレップ・トリップ』を出すあたりはさすが。読書好きの琴線にふれるというか足の裏をこちょこちょ擽って頬を緩ませる。 今月の緑帯新刊が菊池寛『半自叙伝・無名作家の日記 他四篇』。なあんだ、菊池寛かと云う勿れ。従来の『無名作家の日記 他九篇』をそのまま復刊するのでなく、「半自叙伝」に自伝的小説二篇(「無名作家の日記」「葬式に行かぬ訳」)、定評のある人物スケッチ三篇(上田敏二篇に芥川龍