人間は労働しなければ生きてゆけない。これは経験的事実であり、たとえ個々の人間は労働を免れることができても、誰かが労働しなければ、人間社会は成り立ちません。 しかし、労働時間を短くすることは可能です。また労働をアダム・スミスや他の古典派の人々が捉えたような「労苦」(toil and trouble, or toil and moil)ではなく、楽しい人間の仕事(work)に変えることも、決して不可能ではないはずです。これを実現することがモラルサイエンスとしての経済学の本来の課題のはずです。 しかし、現実の経済社会では事態がそのような方向に変化するとはとは限りません。むしろ、それを押しとどめようとする力学が働いているのではないでしょうか? ケインズが指摘したように(『ケインズの講義 1932ー35年、東洋経済新報者、1992年)、現代の経済は「企業家経済」です。企業家は投資し、人々を労働者とし