多細胞同時記録実験の必要性と方法−現状と問題点− 櫻井芳雄 京都大学霊長類研究所 岡崎国立共同研究機構生理学研究所 科学技術振興事業団さきがけ研究21 1. はじめに 脳はその多様で独特な高次機能をどのように実現しているのであろうか? 一体そこではどのような情報処理方式が採られているのだろうか? この誰で も思いつきそうな問いは,実際に脳を研究する立場からは意外と意識されてい ない。現在隆盛の一途をたどる脳の実験的研究は,ある機能にどの伝達物質が 関わっているのか(what),あるいは,ある機能にどの部位が関わっているの か(where),に関するものが圧倒的に多い。ある機能がどのように処理され 実現されているのか(how)に焦点を当てた実験的研究は,極めて少ない。何 よりも,脳内では何が情報処理の基本コードであるのか,つまり情報表現(符 号化)の基本的単位さえもまだ明らかではない。そ