タル・ベーラ。このハンガリー人監督の名前がどの人の口からも滑らかに出てくるようでなければいけない。せめて、映画界の巨匠たちの何人かを挙げられる人たちには。7時間半に及ぶ超大作『サタンタンゴ』(94)で世の中に強烈な印象を残し、次作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(00)も3時間に迫る勢い、『倫敦から来た男』(07)はストイックなノワールの衣を借りた真実に満ちた傑作だった。そして新作『ニーチェの馬』が公開された。トリノの広場で馬の首にしがみつき、泣き狂う男。そんなニーチェの最後のイメージにこめられた、人、馬、そして目。そのうえ、これが監督の最後の作品であるという宣言が付いてきた。これまでも最後と言いながらその言葉を覆してきた監督は数多いるが、この映画を見ると、本当に最後かもしれないというのをひしひしと感じる。何ものにも動かされず、“堅い”というのがこの人の映画の印象だが、それはこの“最後”